2 運命の書き換え

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2 運命の書き換え

 この町では毎年神様に感謝を捧げるお祭りがあり、広場にはたくさんの屋台が出て人々は踊り、歌い、酒を飲んで大騒ぎをする。  今年は百年に一度の特別な年であるとともに、新しい聖女に代替わりをした年でもある。その祝いも兼ねて今日は特別に賑やかな夜となったのだけれど、ニーナの心は沈んでいた。  儀式の本番であんな失態を犯したのだ。町の人達はきっと、ニーナに落胆しているに違いない。  祭りの喧騒の中で、ニーナはウィルと一緒に歩きながら肩を落としていた。  屋台からは食べ物の良い匂いが立ち込めているし、広場にある舞台上では吟遊詩人が音楽を奏でたり、芸を披露する者がいる。  人々の笑い声に包まれたこの空間は本当に楽しい場所なのだが、今のニーナには素直に楽しむことができない。 「大丈夫だよニーナ。僕に任せておけばいいんだから」  そんな彼女の様子に気付いたのか、隣を歩くウィルが声をかけてくる。 「ウィル、一体何をするつもりなの?」  彼は、ニーナの運命を変えてくれると言っている。しかしその具体的な方法はどんなものなのか、まだ聞かされてはいなかった。 「それは後のお楽しみ。今はのんびりと祭りを見て回ろうよ」  そう言って彼は目を細める。彼の笑顔を見るとニーナは不思議と安心できた。 (この人が私を助けてくれようとしているなら、私はそれを信じよう)  彼女は心を決めると、ウィルと共に賑わう夜の町へと繰り出していった。 「あーらニーナ様じゃない? こんなところで何をなさっているの?」  突然横合いから声をかけられた。うんざりしながらもそちらを見てみると、そこには派手な格好をした女性が立っている。彼女のは嫌味っぽく唇を歪めており、その視線は明らかにニーナを見下したものだった。 「聖女様ともあろう人が、庶民のお祭りを楽しむためにわざわざやって来られたんですの?」  そう言ってわざとらしく驚いてみせるこの女性――イザベラは、この町一番の金持ちの娘であり、ウィルの婚約者でもある人物だ。 「あんたこそ、こんなところで何してんのよ?」 「わたくしは気分転換にお祭り見物ですわ。だって今日は新しい聖女就任の記念も兼ねているのですから、楽しもうと思いまして」  そう言ってイザベラはくすくすと笑い、その横で取り巻きの男であるマテオもニヤついてみせた。イザベラはいつもこの小柄で地味な男を連れており、二人して何かとニーナを馬鹿にしてくるのだ。  ニーナは悔しさを抑えながら黙っていたが、内心では腸が煮えくり返っていた。  どうやらこの二人もあの儀式に出席して、ニーナの失態を見ていたらしい。あの時のことを思い出すだけで恥ずかしくて顔から火が出そうになる。  しかしそれを表に出さず我慢していたのは、ここで言い返したりすれば相手の思う壺だとわかっているからだ。 「イザベラ、用がないのなら僕らは行くよ」  ウィルが口を挟んだが、イザベラはその言葉にも怯むことなく、むしろ面白がるような表情を見せた。 「あらぁ、ずいぶんつれない態度をおとりになるのね……もうすぐお二人は別れなければならないのに」  その言葉を聞いた瞬間、ニーナは頭がカッとなった。思わず手を振り上げそうになるが、寸前でどうにか思い止まる。 「まあいいわ。せいぜい仲良くするのね。あなた方が一緒にいられるのは、あと少しだけなんだから」 「……もういいでしょ。私達は忙しいんだから」 「それはごめんなさいね、聖女様の大切な時間を邪魔してしまって。でも聖女様ともあろう人が男性とこんな風に町中をぶらついているなんて、感心できませんわねぇ」 「ご忠告、どうも」  怒りを押し殺した声でニーナは言うと、踵を返しその場を離れた。 「あんな人が聖女だなんて。このままでは、彼女は町の疫病神になりかねないわよ」  背後からイザベラ達の嘲る声が聞こえてきた。  ニーナは無視して歩き続けるが、背中越しに感じる侮蔑の言葉に歯ぎしりする。 「ニーナ、大丈夫かい?」  隣にいたウィルが心配そうな顔を向けてくる。 「うん。私は平気だから」  どうにか笑顔を作ってそういうが、本当は泣きたいくらい辛かった。  それから祭りの間ずっと、ニーナはもやもやとした気持ちを抱えたまま過ごすのであった。
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