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 その日の竜之介は、朝倉澪の事ばかり考えていた。  昼休みになってやっと友人や食事へ意識が向いたところだったが、弁当を取り出そうと鞄を開くと、彼女から受け取った手紙が視界に飛び込んできて引き戻されてしまった。  洋型二号の真っ白な封筒。脇に添えるように『○○○○様へ』と竜之介の父親の芸名が書いてある。  バランスのいい細い文字は、竜之介が抱く朝倉澪の印象とは大きく異なるものだった。  思わず手を止めてしまったが、こんなものを誰かに見られたら厄介な事になる。弁当を机の上に取り出すと、手早く鞄のチャックを閉めた。  教室は昼休みの喧騒に満ちている。  生徒達が思い思いに口にする言葉、笑い声。椅子や机が動く音、衣擦れ、廊下から聞こえる駆け足。それらが輪郭を失ってできた昼休みの音だ。 「俺の父親、犯罪者だからさぁ」  竜之介がお決まりの一言を口にすると、周りの友人達からドッと笑いが上がる。  「別に犯罪者ってわけじゃねぇだろぉ」 「いやいや、同じようなもんだって」  二度目の高校生活が始まって直ぐに、竜之介は父親の事を自ら触れ回った。  隠そうとしたところで、いずれどこかから伝え広まるだろうし、弱みは隠そうとするほど深刻さが増すものだと、過去の経験から知っていた。
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