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春
新しい高校生活も、1ヶ月経てばまあまあ慣れてくるものだ。
高校までの距離はギリギリ自転車通学を許可されているけど、校則でヘルメットを着用しなければならない。
…そんなの、ダサすぎる。
だからわたしは、徒歩通学の為に毎朝5時半には起きる。何もしなければもう少しだけゆっくり起きられるけど、ストレートヘアアイロンを髪に当て付けて セットする時間が必要だから。だって、時間をかけないと綺麗なストレートヘアにはならないから。
朝起きて洗面所に向かい、まずヘアアイロンの電源を入れる。次に顔を洗って、ドラッグストアで買った化粧水と乳液と日焼け止めを顔に塗るのが私のルーティン。
最後にビューラーでまつげをクルンと上げて、顔は完成。
その工程の間に熱くなったヘアアイロンを使って、今度は髪を丁寧に整えてから、やっとひと段落だ。朝食が準備されている食卓に座る。
このルーティンだと、ちょうど良くおとうさんと入れ替わりで朝食の席に座れるのが、最高。
おかあさんからトーストが差し出される頃には、おとうさんは「じゃ、いってきます。」と言って玄関に向かう。私は背中を向けたまま「いってらっしゃい。」と声をかけることもあるし、口に何か入っていて言わない時もある。いずれにせよ、朝から不快なものはなるべく視界に入れたくないし、関わりたくない。
「お姉ちゃん、おはよう。」
「梨花、口にケチャップついてるよ。」
私の正面に座った妹の梨花は、この春で小学6年生だ。えへへ、と笑いながら口の端を拭う顔はまだあどけない子供って感じ。
私はトーストにバターを塗り その上からおかあさん手作りのマーマレードを重ねる。まだ熱いパンの耳のはじっこまでスプーンを滑らせた。味がないパンは、あんまり好きじゃないから。
「梨美、お父さんにもう少し優しくしなさい。寂しがってるわよ。」
「…今日は、ちゃんといってらっしゃいって言ったよ。」
「今日だけじゃなくて。」
私のお弁当の中身を詰めていた箸をこちらに向けて、おかあさんが顔をしかめきた。私が箸で人を指すと「やめなさい。」って怒るくせに。だけどもう、そんな事をいちいち話している時間はない。なにしろ、朝は忙しいのだ。
「ちょっと、話聞いてるの?。」
「ねえ、おかあさーん。今日の帰りユキちゃんち行ってもいいー?。」
しつこく話しかけてくるおかあさんを制すように、梨花の甲高い声が割って入る。ナイス、梨花。私は口にトーストを押し込み、席を立った。
「じゃ、いってきます。」
中学生になった頃から、なんだかおとうさんの顔を見るだけでイライラするようになった。これが反抗期ってやつ?って自分でも思うけど、生理現象に近いものだから仕方がない。
本当はおとうさんに向かって「近寄らないで!話しかけないで!。」と怒鳴り散らしたいくらいなのに、それを我慢してあげているだけでも感謝してもらいたい位なのに。
お母さんの手元にある弁当箱を素早く鞄に入れて、私は逃げるように家を出た。
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