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3.記憶
「あの時、何て言われたのかどうしても思い出せないのよね」
私に何事かを呟いたお婆さんはその後すぐ家の中に入っていってしまった。中から「おーい」という横柄な男の声が聞こえてきたからだろう。何だかとても嫌な感じの声だったことを覚えてる。
「何だよそれ。そんな家あったか?」
「うん、ちょうどこの辺り」
私が画面に映る地図を指差すと彼は「なんだよ、家建てるのってまさにこの土地じゃん。そんな家あったか?」と首を傾げる。
「あったってば。結構古そうな家でさ、屋根が青色だった」
「ふぅん。全然覚えてない。その辺りなら俺も知ってるはずなんだけどな。あ、それ夢なんじゃね? お前昔からぼーっとしたとこあったから」
「失礼ねぇ。夢なんかじゃないって」
反論する私に向かって裕司は面倒そうに「ま、どっちにしろもうそんな家ないぞ。今は更地らしいからな」と言い地図を閉じた。そういえばあれからお婆さんも青い屋根の家も見た記憶がない。裕司の言うとおり夢だったのだろうか。
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