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「あ、あの、昔この土地に青い屋根のお家がありませんでしたか?」
無視されたのが気に食わなかったのだろう、裕司が小さく舌打ちして「そんなんどうでもいいじゃんかよ」と吐き捨てる。
二人の間に険悪な空気が流れるのを見た鈴木さんは慌てたように「いやいや、どんな由来の土地か気になるのもわかります、はい」と取りなした。だが彼の口から出てきた言葉は予想外のものだった。
「この土地はもう何十年も更地でしたよ。長らく相続で揉めてましたからねぇ」
「えっ……」
「ほれみろ、元々そんな家なかったんだよ」
絶句する私を他所に裕司はフン、と小馬鹿にしたように鼻を鳴らし再び不動産屋と話し出す。その瞬間、私はあの時お婆さんに言われたことを思い出した。
――間違えちゃダメよ、最後の選択をね。
お婆さんはそう言ったんだ。そしてもうひとつ、家の中から聞こえてきた横柄な男の声が苛立った時の裕司の声そっくりだったことに気が付いた。あの家はひょっとして。
私はニタニタ嗤いながら不動産屋と話す彼を横目にそっと一歩後退った。
了
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