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その1 役得
こんにちは。タクシードライバーの岩田こま草です。
思い起こせば、
五十二歳の時に強烈なパワハラに合い、やむを得ずタクシードライバーに転職したのが二年前でした。その時に書いたのが『新米タクシー今日も行く!』。今までと全く違った特殊な仕事に悪戦苦闘しながらも、コロナ真っ只中で奮闘している私を赤裸々に紹介しました。その時に感じたのは世間の暖かさ。あんなド素人をよくも寛容に受け入れてくれたものだと、今は本当に感謝感謝!しております。
そして二年目の『タクシー懲りずに今日も行く』。少しづつコロナが収束し世の中に明るさが見え始めた頃、ようやく安定軌道に乗せる事が出来たのがこの時期でした。ギャンブル性が高いと思っていたこの仕事ですが実はそうではなく、ちゃんとしたノウハウがある事に気付き、この仕事の奥深さを思い知らされれた一年でした。
そして今年三年目。
札幌雪祭りも三年ぶりに開催され、コンサートでも声出しが解禁された昨今。そんな中でタクシーを走らせる私はどう思うのか……なんてそんな壮大な事を書く積もりはありませんが、日々思った事を徒然に書いて行こうと思います。
で、
最近、こんなうれしい事がありました。
夜十時頃、いつも通りタクシーを流していると電話が掛かってきました。
また無線センターからの緊急依頼かなと思いながら出てみると、昔勤めていた会社(前々職)の社長からでした。
その人は私が師と仰ぐ人です。
最後に社長に会ったのは三年程前。前職でパワハラにあっている時でした。その時の私の声には余程覇気が無かったのでしょうか。心配して会ってくれたのです。今思えば、あの時自分の気持ちを保つ事が出来たのは、社長が時間を割いて会ってくれたからでした。それから何回かメールのやり取りをしていたので、私が今タクシードライバーをしている事は社長は知っています。
「今ススキノにいるんだ。送ってほしいんだけど、いいかな」
幸いそんなに遠くない場所にいましたので、私は喜んでススキノに向かいました。
待ち合わせ場所に行くと、元気そうな社長の姿がありました。頭はすっかり白髪になっていて、それが時の流れを感じさせました。
「お久しぶりです。お待たせしました」
「いやいや、早かったよ。元気そうじゃない」
「はい。社長のおかげです」
「ははっ、もう社長じゃないけどね。今日はちょっとした接待でね。その帰りなんだ」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
社長は今、他の会社の役員をしています。
「で、仕事はどお、順調?」
「はい。観光客も戻ってきて、結構忙しいですね」
「そう、いい事だね。やっと明るくなって来た感じだよね」
そんな何気ないやり取りをしながら、社長の自宅までの約二十分間、昔の仕事仲間の事や最近の家族の事なんかを話しながら会話を楽しみました。
「昔の仲間が元気にしている姿を見るとうれしくなるね」
そんな言葉を社長は最後に言ってくれました。
毎日無機質な鉄とコンクリートに囲まれながら仕事をしていると、心が磨り減ってきます。そんな時ご褒美の様に暖かいお客様が来るものですが、社長との再会は最大級のご褒美でした。
見守ってくれてる人がいる。
そう思うだけで気持ちが暖かくなりました。
2023.2.24
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