とある日

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とある日

「茶色い目と青い目が同時に白目に。さて、何があった?」 活発男子が手を挙げる。 「砂嵐がふいた。」 「ガッキーかと思ったら、楽器、ジャンベだった!レットイットビーレッビー!」 社会の授業で習ったばかりだ、アフリカの伝統楽器だと教わった。奴隷制度と一緒に先生は我が事の様に悔しそうな表情で教えてくれた。けど、この活発男子は答えとして、 訳が分からない。だけど、みんな笑顔だ。 正解は飢饉(基金)でしたぁ。クラスから納得しない表情が出る。  小学5年生の時のお遊戯会での他のやつらの発表である。こんな感じだった。私は一人で川の写真を発表した。 「汚い」「臭そう」「一人で発表してる」 私はそんな言葉を浴びせられた。  私はいじめられていた。 10年後、もがいた末同窓会に出席した。私をいじめていた女子のリーダーが隣に来て「あの頃はごめんね、私もまだ子供でさ。今日市井さんも出席するって聞いたから謝ろうと思ってたんだ」 私にはあの頃というのがいつなのか分からなかった。この人、元木の中では、小5で終わっていることなのだろうか?トリック・オア・トゥリート。私がされて来た事を、子供の頃にある決まり文句のような、もう昔のいたずらだよと受けとり、つまみの一つも差し出すと思っていたのだろうか、そして乾杯すると。それより私から見て着ている服が自信に満ちているのが気に食わない。元木の話は続く 「実を言うと私も高校時代いじめられたんだ 。きついねあれ」「だから、ごめん」頭を軽く下げ、話をつづけた。聞くと、学級委員に立候補したことが、輩どもの気に障ったらしい。それから、シカトが始まり、元木の持ち物を隠す、壊す、相手は立ち悪く、他の生徒にものを言わせず、唯々、元木一人をイジメてきた。 「退学だけはしない」それが唯一の抵抗だった。まぁ今となれば笑い話しだけど。といって笑った。「じぎょうじとくっていうのこういうの、公共事業に打ち勝った住人。」「かな?アハハ!」 「それを言うなら自業自得。じゃないかな。」 「ガキには必要な事業!。」 「それなら、なんで私だったの。」 「これ見て、腕時計の下。」 そう言って元木は腕時計の下にある痣を見せてきた。そして腕時計を完全に外し、同じ様に腕を見せテーブルの上に置き「置時計」と言って笑っている。決して酔っぱらっているわけではない。 「私のコンプレックス。」 「こう言う事にさ、あざとく気づいてイジメの対象にする奴がいるんだよ。」「ってこ答えになってないか。あはは。」 私はびっくりした。いじめられた過去を笑い、コンプレックスをネタにする。 気が付いたら私は「それ、どうやるの?」と。元木に詰め寄っている。「ん?アザ?」 「そうじゃなくて。」  私は全身明るみのない目立たない服を選んでいる。小物も。人目が気になってしまう。自分には似合わない。という決めつけもある。過去の話しは出来ればしたくない。それを元木は、流行りの服にあの笑顔。男の話しも聞いてみたい。それほど元木は魅力的だった。けど、許している訳ではない。 ただ、力に変えてみたい。  小学生の時にはすでに私は醜い。周りからそう見られているし、そういう扱いもされてきた。  そういう事をする奴が本当は一番醜い。 と、言う言葉もテレビやラジオから流行りすたりの様に耳にしてきた。なので、あまり意味をなさなかった。自分は絶対強く生きて行くんだ!という気持ちと、それを支えるだけの芯、言葉の足りない子供だった。クラスメイトからもテレビからも見捨てられた私は自分に出来ることは無いかとグルグル考えた結果、同じ様に虐められている子の力にはなれないものだろうかと考え、『いじめ、虐待撲滅活動』と銘打ったサイトの番号に電話を掛けた。これも小学五年生の時だ。  電話に出たのは古川さんというおばさんだ。不思議なことに古川さんが退職した今も付き合いがある。丁度去年のクリスマスを一緒に過ごした。イブに母親以上歳上のおばさんと過ごすのは少し抵抗があった。私は二十三歳、古川さんが六十七歳。クリスマス・イブに鰻が食べたい。昼はランチで安いし、イブは狙い目。そして夜には帰るからと、ね。  私が、『いじめ、虐待撲滅活動』に初めて電話した時、電話に出たのが古川さんだった。電話をするときは名前を言って相手の話を聞く。必要があればメモを取る、だから「市井久美です、醜くていじめられていて、だから、みんな元気にしたくて、でも私の顔を見えたら駄目で綺麗でもだめで」頭の中に、いじめっ子が浮かんだ。あぁ、私はこいつらの行いの結果いま、行動に移ったのだと。いじめている人間の笑顔ってこんなに醜いんだとおもった。勿論、元木も含まれている。そして自分の顔も含まれる。そこで私は言葉に詰まった。そしたら受話器の向こうから  「名前は久美ちゃんでいいのかな?」 「はい」 「何年生?」 「小学五年生です」 「大体わかったよ。安心して。」 「・・・」 「電話ありがとうね。勇気もありがとう。」 「・・・」 「私は古川って言うんだ。決して若くないけど声どうかなぁ?大人と話しているっていう、壁というのかな、言いづらさ感じる?」 「あのね久美ちゃん、久美ちゃんが電話掛けてくれた番号は、求人用なんだ。求人って分かるかな、働く人を募集してい」 「やりたいです。」「子供じゃ駄目ですか?」食い気味にかぶせる。 「十八歳以上の募集になるんだ。ごめんね。だけど、今の悩みの相談窓口ならおしえてあげるから。」  「小論文ってなんですか?」 「作文みたいなものかな。あと、履歴書と面接。どれも将来やることになるわよ。久美ちゃん。大丈夫。それと、今の早さ忘れないでね。」  私は今、アルバイトで生計を立てている。実家に住み月に5万円を家に入れている。高校を卒業し、事務員として、小さな会社に就職出来た。私は卒業が好きだ。小学校も卒業すればいじめから逃れられる。中学を卒業する私はその頃には桜並木を堂々と歩いて、高校を高校を卒業する頃にはもう大人の女になっていると。  結局、金の絡む仕事は向いていないらしい。金より生き甲斐を取った。何故かは分からないが、大学生がキラキラして見えた。居場所と身分。 「 愛」 私は、私が属した物に愛を、感じた事が無い。だから、生き甲斐は無い。なら何故会社を辞めたか。夏目漱石の草枕の冒頭を読んでビックリしたからだ。天才だ。  グーグルアースでピラミッドを観て、なんだか世の中から、世界の動きから取り残されている様な気になった時もそう、ただ違うのは草枕は実際の行動に移してくれた。「こうしちゃいらんねー!」って。 そして、休みの日にプラネタリウムを観に行った。スクリーンに映る1つ1つの星を家や人と捉えると三軒隣が何億光年先って、笑えて今までの私の小ささにまた笑った。気づいたら泣いていた。
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