1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
渾身の告白に、昴が魂を抜かれたように呆けた表情を見せる。わたしは階段を駆け降りようとして、しかし無様によろけた。
「あっ」
言った時にはもう遅い。転がり落ちて痛い思いをする未来を想像して血の気が引いた時、昴が焼きそばパンを放り出して、階段を二段飛ばしで駆け昇ってくるのが視界に入った。
がしりと逞しい腕が、わたしを抱きとめてくれる。あんなにか弱い子だったのに、今はまるで、イリオスのようだ。
「……間一髪、じゃねえか」
昴のあきれきった声が、耳元で聞こえるので、顔を真っ赤にする。
「ご、ごめん……」
と謝れば、「いや」と彼がゆるゆる首を横に振る気配がした。
「『前』みたいに、何にも助けられないまま終わらなくて、良かった」
その言葉に、時が止まる。
はい、何て言った? 『前』?
がばりと身を離して彼の顔を見る。少しつり気味の、色の薄い瞳が、わたしの間抜け面を映している。
「やっぱお前も持ってるんだ、アティアの記憶」
お前『も』というフレーズに確信を得たわたしに、昴は追い討ちをかける。
「でも、イリオスの罪悪感からじゃねえからな。オレは入尾昴として、小野寺涙が好きなんだからな! そこ勘違いするなよ!」
ツンデレみたいな告白をする昴の耳が、真っ赤になっている。うん、恥ずかしいと耳だけ赤くなるの、小さい頃から変わらないね。イリオスには無かったよね。
「わたしもだよ」
あんまり見つめていると、照れ隠しに怒られそうだから、くすりと笑って、彼の首に腕を回し、肩に頬を寄せる。
アティア。
イリオス。
貴方達の想いは、わたしたちが昇華して、きっと幸せになってみせるから、安心して眠ってね。
真っ昼間の校内での告白劇に、生徒達が何事かと集まってわたしたちを取り巻いているのに気づいたのがだいぶ後だったのと、昴と揃って職員室に呼び出されて、
「仲が良いのは構わないが、時と場所を選ぶように」
と先生に釘を刺されたのは、ほんの余談に過ぎなかった。
最初のコメントを投稿しよう!