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それだけなら良かった。(二回目)
わたし一人なら、前世の記憶を人に告白する事も無くひっそりと抱え、小野寺涙として、揺蕩うように現世を生きていただろう。
だが、いたのだ。めちゃくちゃ身近に、わたしの頭を悩ませる男が。
彼の名前は入尾昴。お隣の家に住む、同い年の幼馴染。
小さい頃は気弱で、身体も小さくて、
『ティアちゃん、ティアちゃん』
と震えながらわたしの背中に隠れて、わたしがいじめっ子から彼を守る役目を担っていたのだ。
ところが、年月が過ぎ、成長するにつれて、昴は、まあ、なんというか、やんちゃが過ぎる少年に変貌していった。
背は高くなり、制服を着崩し、髪を赤く染め、耳にも唇にもピアスをつけて。授業には出るけど、窓際最後列の席で、机の上に足を投げ出して頭の後ろで手を組み、校庭で体育をしているクラスを睨むように見ている様は、先生も非常に注意しづらい。
その姿を見ていて、わたしは気づいてしまった。
彼こそ、わたしと同じ、転生者である事に。
イリオス。
勇者の旅の仲間にいた、赤毛で背の高い騎士。
女癖と酒癖が悪く、野心が強くて、勇者に手を出そうとしては、表向き守役だったわたしとぶつかり合う、いわば喧嘩仲間だった。
そして、わたしが魔族に脅迫されているのをひょんな事で知りながら、わたしを見逃していた。
『お前は事情があってあの女の命を狙ってる。俺はあの女を利用して、王国での地位を高めたい。お互い後ろ暗いんだ。誰にも言わなきゃばれねえだろ』
こんなちゃらんぽらんな男に情けをかけられたのだと思い知った時は、屈辱感で一杯だった。
だけど、旅の途中で彼がわたしより先に落命した時は、胸にぽっかり穴が空いたようで、仲間達から離れた場所で、一人大泣きした。
密約を交わす関係だった彼に、どれだけ惹かれていたか。思い知った瞬間だった。
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