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そんなある日の昼休み。
「なあ小野寺ー」
クラスの仲の良い友達と話している時、その中の一人の男子が、揶揄い気味にわたしに訊ねてきた。
「小野寺って、入尾と付き合ってんの?」
一瞬、わたしは完全に硬直した。それから、ぼっと頬を赤くして、「ない!」と叫ぶ。
「だって小野寺、入尾と幼馴染だろ? 家も隣だし、昔から仲良さそうだし」
わたしが慌てたのが面白かったらしい。さすがに見かねた女子の一人が、「やめなよ、意地悪い」とたしなめるけど、男子は更に煽ってくる。
「結婚の約束とか、しちゃってるんじゃないの?」
ケッコン!?
完全にパニックになったわたしは、「ないから!」と、ばあんと机を叩いて立ち上がる。
「入尾くんはただの幼馴染! 好きでもなんでもないんだから!」
言い切って顔を上げた時、空気が凍りついた。
昴が教室の入口に立っていた。購買に行った帰りらしく、焼きそばパンとサンドイッチ、パックジュースを手に抱えている。
いや、そんな事はどうでもいい。わたしの言葉は、きっとばっちり聞かれた。真ん丸く見開いてわたしを見ていた目が、ふっと逸らされ、彼は教室を出てゆく。
イリオスが、勇者を守る為に、魔物の棲む森の奥へ一人で消えた、最後に見た前世の背中を思い出す。その肩を掴んで引き止めなければ、彼はまた、わたしの前から消えてしまう。
だめ。行かないで。
わたしは完全にアティアの記憶を辿っていた。唖然とする友人達を置いて、教室を飛び出す。そして階段の踊り場で、階下に降りようとしていた昴に追いついた。
「昴!」
彼が振り返る。ひどく冷たい目で。魔物を斬る時にイリオスが見せていた、無慈悲な戦い方と一緒だ。でも、今、昴にそんな顔をさせたのは、アティアじゃあない。わたしだ。
だから、わたしの精一杯の想いを込めて、声を解き放つ。
「わたし、昴が好き! 昔から、ずっと!!」
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