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広間で、神官達が一心に祈りを捧げている。
この国は武力により、近隣諸国を征服し弾圧していた。
新たなる力を手に入れるため、王が召喚を命じたのだ。
祈りが終わりに差し掛かった頃、広間の床がまばゆい光を発した。
その中心に、ふっと小さな影が現れた。
「おおっ!」
「これは……」
夜の闇のような漆黒の毛並み。
「……」
凍てつく月のような、鋭い眼差し。
「…………」
耳は警戒のためか、伏せられている。
何かを思案するかのように、長いしっぽがゆらゆらと揺れている。
「「「猫だろ!」」」
大きな声に驚いたのか、黒猫は目を見開いた。
王は怒り狂った。
「この役立たずどもが! 神官達の首をはねろ!」
「お、お許し下さい!」
慈悲を乞う神官達が、広間から引きずり出されていった。
「ふん、つまらん」
第一王子が、猫の元に歩み寄った。
すらりと腰の剣を抜く。
「どうせなら、虎でも斬りたかったがな」
王子が剣を振りかざした瞬間、猫の目がぎらりと光った。
「……っ!」
王子は息を飲んだ。
ごろりと床に転がる自身の首を見たような気がしたのだ。
王や大臣達に見られている事に気づき、王子はかっと頭に血がのぼった。
よくも、恥をかかせてくれた。
たかが猫のくせに。
「このっ!」
王子が切り刻もうとすると、猫は素早く身を翻した。
「うなぁぁおぅぅぅ!」
猫が唸り声をあげると同時に、火柱が吹き上がった。
王子の体が、炎に包まれる。
「うぎゃああああ!」
あまりの熱さに、王子はのたうち回った。
「王子!」
「火を消せ!」
騒ぎの最中、いつの間にか黒猫は姿を消していた。
「あの猫を捕らえろ!」
王が命令を下す。
「あの力があれば……」
世界さえ思いのままに出来る。
黒焦げになった王子の死体を前に、王はにんまりと笑った。
黒猫は、あてどもなく国内をさ迷った。
意味もなく石を投げられ、水をかけられた。
食べ物を手に親切そうに近づいてくる者もいたが、猫が口をつけようとした瞬間に取り上げ、げらげらと笑った。
この国の人間は、上から下まで腐り果てていた。
黒猫の足元から、ゆらりと炎が立ち上った。
「うなぁぁぁぁぁおぅぅぅぅぅ!」
怒りに満ちた声が、国中に響き渡った。
空からは無数の岩が降りそそぎ、川からは水が溢れた。
あらゆる所から炎が立ち上ぼり、家々を焼き付くした。
逃げ惑う人々を激流が押し流す。
それは、さながら地獄絵図のようであった。
かくして、栄華を極めた大国は一夜にして亡びたのである。
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