赤ちゃん

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こぼれるようなピアノの音。 この音は、私の幸せな音なんだって。 だから私も思ったの。 こんな家族でありたいって。 【 赤ちゃん 】 お腹の大きくなった親友が久しぶりに遊びにやってきては、不安そうにして私に尋ねた。 「ねぇ!この名前にしようと思うんだけどどうかなぁ!?」 「私に言ったってしょうがないじゃない。旦那くんに聞きなよ」 「だって、今流行りのキラキラネームだったら不安なんだもん!旦那の感性なんてアテにならないから、ここはセンスに秀でた親友の意見を聞いたほうがいいと思って」 「それってセンスって関係あるかな~?名づけセンスとピアノができるのは違うでしょ」 レミは納得いかなそうな顔をしながら『赤ちゃんの名付け辞典』とにらめっこした。私はレモネードを出し彼女の隣に座る。 夏の強烈な日差しは家の中にいても届くほどで、蝉の鳴き声がまるで暑さはまだまだ続くんだぞと言っているようだった。 私もレモネードを一口飲んでは、きりっとした酸っぱさに夏なんだなぁと改めて感じてしまう。 子供たちは夏休みに入っていて、本当ならこの昼間は賑やかなはずだけれど、ここ2日間ほど私の祖母のいる田舎に遊びに行っている。 そう遠くない距離なので、今日は旦那が仕事の帰りに子供たちを迎えに行ってくれる。夫婦二人の静かな夜もおしまいだ。 普段は子供たちに振り回されっぱななしなので久しぶりの落ち着いた生活にホッとしつつも、いなきゃいないでわがまま言ってないかとか、好き嫌いしてないかとか怪我しないかとか気になってしまい、 それが終わるとなると今度は嬉しいようなちょっとだけ残念なような気持ちが行ったり来たりだ。 レミは中学からの友人で、今は地元の大きな病院で看護師をしている。 旦那さんは私が住んでいる地域の人気ベーカリーを営んでいてとても忙しそうだ。 そんな彼女も去年結婚し、子宝に恵まれてあとひと月しないうちに生まれそうなのだから時間というのは本当にあっという間である。 「子ども、女の子だからトモエのピアノ教室に通わせようかな。ご近所さんだし」 「生徒ならいつだって大歓迎。親子で楽しく弾けるレッスンでも始めるのもいいかも」 「あははは。そしたらまず妹と姪っ子通わせよう」 レミの言う通り、私は自宅でピアノ教室を開いている。 生徒は地元の子供たちと、意外にもお年寄りが多かったりして、細々ながら何とか続けさせてもらっている感じだ。 久しぶりにやってきたレミは、雰囲気が前と少し変わっていた。 絵に描いたような真面目ぶりは健在なのだけれど、少しだけ鋭さがなくなった気がする。 前は都心の大学病院で働いていた。 地元のとこよりもずっと大きく、最先端医療が揃っているような大病院だ。 お祖母さんの介護事情でこっちに帰ってきてからは何度かお茶をしたり夕食に誘ったりして、色んな話をした。 レミは自分で決めたらさっさと物事を進めてしまう性格なので、気が付いたら同棲していてすぐに結婚の報告があった。 それも相手は誰かと思えば地元の人気ベーカリー『スオウ』の店主。 おまけにスオウさんはレミとは全く正反対なタイプなのだから二重に驚いてしまったくらいだ。 けれど、彼と付き合い始めてからレミの雰囲気が柔らかくなって、結婚したらもっと丸く落ち着いたのだから相性っていうのはつくづく分からないと思う。 きっとレミにとってスオウさんはすごくリラックスできる人なんだろう。 「そういやトモエはさ、結婚何年目だっけ?」 レミが不意に聞いてきたので記憶を思い起こした。 新婚もすぎてしまえば自分が何年前に結婚したかなんて考える事なんてなくなってしまう。 結婚してすぐに上の子ができたことを考えた。 「10年目……かな。上の子が9歳になるから」 「10年!おめでとう!そりゃすごいや。……そっかぁ~。……ねぇ、10年目でもケンカってする?」 突然の質問にたじろぐ。 本当のことを言っていいのかと微妙な表情でいると、レミは察したのか「やっぱするよな~」と言ったので私は苦笑しながら白状した。 「まぁケンカっていうか私が勝手に腹を立てたりしちゃうのがほとんどかも。私が勝手に一人で怒ってるみたいな。ちなみに子供のことでそういうのが増えるよ~」 「げっ。ほんと?なーんか私ものすごく一人でカリカリなりそうな気がする。だって向こうがトロいときあるんだもん。能天気というかなんなのか」 「でもそこがスオウさんの魅力じゃない。二人が同じだったらぶつかっちゃうから、それくらいがいいんだよ」 「そうかなぁ~」 「うちだって同じだよ~。旦那のほうがユルいから、何だかんだ子供はパパ派だもんね。私は口うるさくなっちゃうし。甘えてくんのはお腹すいた時だけよ。ゲンキンで笑っちゃうけどね」 「トモエんとこはご両親はずっと仙台だっけ?」 「そ。私がこっち帰ってきたと同時に向こうの病院に呼ばれて、ね」 もうどのくらい会っていないだろう。 音大を卒業して都心で働いていた頃、両親から引っ越しの話をされた。 けれど私を驚かせたのは突然の引っ越しではなく、幼い頃から不仲だったにも関わらず、それでも新しいところへは夫婦一緒にいるという両親の選択のほうだった。 その頃、私は結婚で地元に引っ越す事を予め決めていたので、私とは入れ違うようにして両親は新天地へ行ってしまった。 広すぎる家は手放して今はもう別の人が住んでいるらしいけれど、私も兄もあの家に執着はなかったのでどうでもいいことだ。 父は医者で、母は所謂いいところのお嬢様で華道教室を持っていた。 兄は父の望み通りにストレートで医者の道に進み、今はアメリカの病院で働いている。 たまに日本に帰ってくるけれど、兄も、兄と結婚したCAの義姉も日本で暮らす気はなさそうだ。 もちろん私も何不自由なく育ててもらい、中学までは地元に通い高校からは県外の私立の音楽科に進み、そのまま音大も卒業させてもらえたほどに裕福だった。 人の親となった今では、お金の苦労をしたことがないのは何よりもありがたいことだと思うけれど、それでもどうしても私の心を暗くさせていたのは両親の不仲だった。 「トモエのお父さん、現役バリバリですごいよ。うちの上の先生なんていつリタイヤして第2の人生歩むかって宝くじみたいな話してるんだもん」 レミは私が両親に感じている溝も全部知っている。 父と同じ業界で働くレミには突っ込んだ話までしなくとも伝わるところがすごくありがたいと思う。 医者の家の事情なんて女の世界にいるナースたちには筒抜けなんてことも私だって知っている事だ。 それにウチみたいな話はあまり珍しくもないらしい。私は苦笑しながら言う。 「でもさ、あれだけ昔っから仲が悪いのによく一緒についてったなって、私はそっちの方がビックリよ。お互い自由奔放だし、子どもながらに早く二人とも離婚しちゃえばいいのにって思ってたもん。そしたら私はお祖母ちゃんのとこにいけるのにって」 「あんたも私もお祖母ちゃんっ子だよね」 「今では子供たちがひいお祖母ちゃんっ子よ。肝心のバァバはうちの子の事興味ないみたいだし。ジィジは何かあるとプレゼントくらいはくれるからまだいいかもしれないけれど。それに兄のところは作らないって義姉が最初から言ってるしね」 「ふーん。そっか。ま、今は色々な生き方があるからね」 それでも、うちの両親がここまで自分たちの孫にも興味がないとは思わなかった。 けれどその分、義姉の子供は作らない宣言も、私の結婚相手の事も、生まれた孫の教育方針のことなどもとやかく言われなかったから逆にちょうど良かったかもしれない。 むしろ父方の祖母だけが私や兄、子どもたちや旦那にも気を配って優しく接してくれている。 父方の祖父は昔、眼科医をしていて早く亡くなったのだそうだ。 そこからは祖母は女手一つで一粒種の父を育ててきたのだ。 両親は多分お見合いで時代の流れに沿って結婚したわけだけれど、きっと二人とも初めから馬が合わないんだろうなというのは子供ながらに感じていた。 母は元々子供が好きじゃないのだろう。 いつも綺麗な格好をして、華やかだった。 そして何人か彼氏がいたみたいだった。 物腰の柔らかい父は母よりは優しかったけれど、あまり家にいなかった。 帰っていても書斎にこもり仕事をしていた。そしてやはり父にも恋人がいた。 父はずっと同じ女性と付き合っているようだった。 お互いに無関心かと思えば、顔を合わせた母の怒る声が聞こえてくるので、母が何に腹を立てていたかはわからないけれど私はうんざりしていた。 夫婦間では自由にしていて冷めてるようで執着があったり、それなのに子どもに対しては表面的で、家族で揃えばぎこちない。 何だか作り物みたいだった。 だから私はずっと思っていた。 「私だったら絶対にこんな家族作らない」って。 それでも都心でピアノ講師や他のアルバイトをしながらしてきた恋愛は、どれも上手くいっていなかった。 私が深く愛しても相手の心が手に入るどころか離れていく一方で、時には道ならない恋もしていた。 同じだけ愛せば同じくらいの愛が返ってくるものだと思い込んでしまっていた。 「レミは、お母さんとはうまくやってる?」 今度は私がふと聞いてみたくなった。 レミがこっちに帰ってきてまず話した愚痴が母親とのことだったからだ。 レミはレミで母親と反りが合わないと言ってたけれど、うちの母にくらべれば十分愛情深い良いお母さんだ。 「まぁ……結婚だけでも舞い上がってるのに、すぐに孫ができたから舞い上がってて怖いくらいよ。……まぁ私からしたら妹のアミもいるし、30半ばの出産と子育てには心強いけどね」 「それなら安心した。スオウさんのこともすごく気に入ってるでしょう」 「それが紹介したとき、パン屋のスオウさんだって気が付かなかったのよね。あれだけ美味しい美味しいって買いに行ってたわりには人の顔なんて全然気にしてないんだから笑っちゃうよ」 「あははは。なんかわかるかも。レミのお母さんっぽい」 「お母さんってヤツも人それぞれだから、生き方の幅が広がった現代なんかはもっと色んなお母さんで溢れてるんだろうなー。子供もすぐ保育園じゃ可哀想とかご近所のおばあさんや上の世代とかに言われるけどさ、そういう問題じゃないのにね」 「私は手元で何とか3人育ててるけど、育児と仕事のバランスって難しいよね。レミんとこは病院に託児所あるんだっけ」 「そ。大きいとこだから助かるよ。私がリーダーに任されてる緩和ケアのフロアもまだ3年経ってないから、復帰しても気になる事ややりたい仕事沢山あるもん。……だけどこの子をないがしろにもしたくないし、今は出産と育児に集中しなくちゃね」 レミは大きくなったお腹を見つめて優しく撫でた。 その手で沢山の人の手当てに当たって、助けて、闘ってきたんだ。 同じ手だけれど、ピアノだけ弾いてきた私の手とは全然違うと思った。 夕方になり、レミは大きいお腹を抱えて玄関に立った。 「じゃあ、今日はありがとう。トモエと話せてよかったよ。また遊びにくるね」 「お腹大きいんだからムリしちゃだめだよ。ほんとそこまで送ってかなくて平気?」 「バス停すぐだし大丈夫。旦那んとこ寄って一緒に帰る約束してるし。トモエもピアノ教室頑張ってね。私が復帰したあかつきには病院のリサイタル企画、絶対叶えさせてもらうから。先生たちもトモエのこと知ってるし、すぐ通ると思うから覚悟しといてよね」 「あははは。もう、レミしっかりしすぎ!じゃあ、本当に気をつけてね。今日はありがとうね」 そう言って笑顔で手を振った。 レミが家を出ると私は時計を見て、帰りが何時になるか旦那から連絡はきていないけれど夕飯を作ろうと思った。 もしかしたら子供たちと食べて帰るって急になるかもしれないから、冷蔵庫で冷やしても美味しいものにしよう。 お盆の週は帰省してしまう人や用事を入れてしまう人が多いのでレッスンがキャンセルされることがある。 なので、お盆の週はまるまるピアノ教室を休みにしてしまっていた。 いつもはピアノの音や人の声、または子供たちの声で賑やかなこの家も、私一人だけだとこんなにも静かだなんて変な感じだった。 ……何だか、これが幻なんじゃないの?って、世界中に私だけしか本当はいないんじゃないんだろうかってセンチメンタルな気持ちになってしまう。 かといってテレビをつける気にもならず音楽CDをかける気にもならず、シャワシャワとさざめくような蝉の声を聴きながら台所に立った。 親友の幸せそうな笑顔と、子供を待ちわびる甘い気持ちの余韻が残っていて、思い出しては温かい気持ちになる。 レミもあの笑顔になるまで色々あったんだろう。 闘ったり、悩んだり、落ち込んだり、元気を出したり。 レミもスオウさんも素敵な人だから、きっと明るい家族になりそうだと思う。 私だって上手くいかない日々だってあったのに、こうして自分が幸せになっているのはきっと今の旦那に巡り合えたからだ。 旦那とは都心の楽器屋で出会った。というのも、私は店員で彼はお客さんだった。 当時はピアノ講師だけじゃ食べていけないので色んなアルバイトをしていた。 その中でも長く続いたのが楽器屋さんでの販売員だった。 そこはCDや楽譜も売っていて、楽譜コーナーで彼が熱心にピアノ曲を探していたところに声をかけた事がきっかけだった。 どうやら友人の結婚式の余興でバンドを組むらしく、キーボードを任命されたのだそうだ。 そこでポップスの楽譜を選ぶも何冊かあるので選ぶのに苦心していたと、彼は恥ずかしそうに笑った。 私も一緒に選んでいたところ、彼のほうからいきなり教えもしていない私の下の名前を、確認するかのように尋ねられた。 私が訝しがっていると、彼の話でどうやら同じ高校だった事が判明した。 彼は私の2つ上の上級生に当たり、普通科だった。 音楽科にいた私は学内のコンサートに出た事があり、それで何となく覚えていたそうなのだ。 ……本当にそんな他愛もない出会いがきっかけで付き合うようになった。 彼はピアノのことなんて絶対に全然分からなそうなのに『トモちゃんのピアノは綺麗でちょっと切なくて、でも優しい。トモちゃんらしくて好きだ』とまで言ってくれて、多分そこで生まれて初めて『人から愛される喜び』を私は知ったのだと思う。 本当は完璧に聴こえなくてはいけないはずなのに、いつも何かが足らないって指導者にずっと言われてきた。 でもそこでようやく足りなかったものが何なのか分かった気がした。 旦那からプロポーズされた夜は、思い切りピアノを弾いた。 今までで一番完璧に弾けた。 それはきっと私の持つ寂しさで欠けてたパズルが、彼の温かい心のピースで埋まったからだと思った。 そうしてもっと音が豊かになったのは、赤ちゃんができてからだった。今日のレミのように。 守りたいもの、愛したいもの。 守られていること、愛されていること。 それにどれだけ自分が救われいるか、強くさせてもらえてるか、幸せにさせてもらえているか。 「……みんなの顔、見たいなぁ」 たまらなくなってぽつりと呟いたところで、ダイニングテーブルに置いてあるケータイが着信を知らせた。 作業を中断して手を拭きながら慌てて出ると、旦那の声が聞こえた。 車の中なのかBGMが聴こえる。どうやらロックを聴いているらしい。 「ママ?今、電話大丈夫?ちょうど会社出るとこなんだけど」 「お疲れ様。これからリツたち迎えに行くんでしょ?夕飯とかどうする?」 「そう!それがさ、迎え行こうと思ってお祖母さんに連絡入れたら、マイとゲンがもう一泊したいってダダこねて大泣きして、リツもマイとゲンがこんなんじゃしょうがないからもう一泊するって電話に出てさ。だから、明日迎えにいくことになったってママに報告」 「え、そうなの?……まったくあの子たちは……とにかくリツがしっかりしてて良かった。マイもゲンも言い出したら聞かないんだもん。リツいなかったらお祖母ちゃん一人だけに手焼かせちゃうとこだったわ」 「あははは。明日、お祖母さんにお礼しないとな。まぁ、そういうわけだから今夜のとこは俺と晩酌だな。それかどっか食べに行く?」 「うーん、実はちょっと準備しはじめちゃったけど。ってもまぁ豚しゃぶ素麺だけど。あ!そういえばビール切らしそうなの忘れてた。パパ、買ってきてもらえる?」 「もちろん!それがなくっちゃ俺が困っちゃうよ。じゃあせっかく準備してくれてるんだから、ビールの他に何か手羽先とかも買ってくわ」 「おつまみ、揚げ物は買いすぎないようにね。あとビールも、第3のビールだからね!」 「うっ……さすがは奥様……了解。じゃあ買い物したら帰るから」 「はーい。お仕事お疲れさまね。気をつけて帰ってきてね」 電話を切って、そんなに急いで作る事もなさそうだと分かった私は何か音楽でもかけてから料理を再開しようと思った。 リビングにあるオーディオの隣に沢山のクラシックCDがある。 壮大なオケの音よりもシンプルな楽器の音が良いかなと思い、子供の頃から大好きな曲を選んだ。 シューマンの子供の情景シリーズにある『トロイメライ』。 ゆったりとした調べにこぼれる音は幸福の象徴のような気がして、子供のころから大好きで何度も練習した曲だ。 また、弾くだけじゃなく静かに聴きたい時もあった。 悲しくて寂しい時、穏やかに落ち着きたい時、ケンカして反省した時。 いつだってこの曲が寄り添ってくれた。見守ってくれるようなそんな曲。 『結婚10年目でもケンカするの?』っていうレミの言葉を思い出す。 レミはスオウさんのこと、トロくてカリカリしちゃうって言ってたけど、私もそんなもんだよって思う。 スオウさんみたいに私の旦那は全然かっこよくないし、お人よしだし、せっかく体にいいもの作ってもお酒も揚げ物も間食も好きだからお腹だってちょっと出てきてるし。 ゲームだって大人げないほど好きだし、子供と同じで脱ぎっぱなしや出しっぱなしにするし、この私だって腹立つこともしょっちゅうよ。 ……それなのに、この人で良かったってやっぱり思うのは不思議なことね。 多分、私がカリカリする以上に私を大事にしてくれるし、愛してくれてるってのが分かるから。 本当に困った時は全力でフォローしてくれて、ただただ隣にいてくれる人だから。 いつしかお互いを『パパ』『ママ』と呼ぶようになった私たち。 かといって今更名前でなんて気恥かしくてムリだけど、今夜くらいは旦那と今までの色んな話をしながら夜を過ごすのもいいかもしれない。 また明日からは慌ただしい毎日だから。 私はテーブルワインとシャンパングラスを出して注いだ。 夕暮れのオレンジの光はだんだん濃くなって、ピアノの調べが流れる部屋をよりいっそう照らす。 白ワインの入ったグラスを何となく掲げて覗いたら、オレンジが閉じ込められたグラスは輝いているようだった。 私は、恋していた気持ちを思い出させてくれた友人と赤ちゃんに感謝しながら、またみんなの幸せを祈るような気持ちになりながら、内緒で一人乾杯したのだった。 ( カッコ悪いところはあるのに、何度でも恋するなんて恋は不思議ね )
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