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 シュウなら美しい盛りつけに目を輝かせただろう。そう思い、ケンはうまそうな料理を前にした時のシュウの顔を思い出しながら、目の前の料理に興味を引かれたようなふりをした。実際には食欲などなかったが、余裕を見せなければならない。 「食にこだわらないタイプだと聞いているが、さすがにここの料理には食欲をそそられたかな」  ササキがゆったりと笑う。お前の見えすいた演技などお見通しだと言わんばかりだ。 「よくご存じで。ですが、これほど美しい仕事にも心が動かないような、見る目のない男ではないつもりです」 「そうだろうな。そこはオヤジさんにしっかり教育されたろう」  笑みを浮かべたまま、料理に手をつけるササキ。じらされている。ケンはそう思ったが、自分もことさらにゆっくりと箸を取り、蒸し鶏らしき料理を口にした。ゆっくりと攻めどころを探られているようで、脇にじっとりと汗をかいていたが、ここで焦ってぼろを出すわけにはいかない。 「君に相談がある」  前菜を食べ終えたササキが、ナプキンで口もとを拭い水を一口飲むと、厳かさすら感じられる口調で切り出す。 「なんでしょうか」  ケンはゆっくりと箸を置き、ササキに応じた。 「我々は君の傘下に入りたい」  一瞬聞き違いかと思い、ケンは遠慮のない視線でササキを見つめた。後ろの幹部らしき男の表情が、苦しげに歪む。 「どういうことです?」  にわかには信じられない。慎重に確かめなければ。ケンは脇腹を流れ落ちる汗を感じながら、膝の上に置いた拳を握りしめた。 「今回のことは、シマを広げたいと欲に目がくらんだ部下がしでかした。その落とし前をつけたい」  視界の隅でいきなり動いたものに、ケンは驚いて目を向けた。後ろの部下達もとっさに身構える。しかし次の瞬間ケン達が見たのは、テーブルの脇に飛び出してじゅうたんの上に土下座する男の姿だった。
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