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「まったく、心配したぞシュウ。さすがに驚いたよ」
まだ少し傷跡が目立つ首をストールで隠したシュウの肩を抱いて、キヨヒトは本当にほっとしたらしく、大きく息をついた。
ストールありきのコーディネートで、シュウは以前キヨヒトに買ってもらったジャケットにジーンズ姿で帽子をかぶっていた。そのままステージにも立てるだろう。
「すみません、キヨヒトさんが出た番組やネットの記事は寝ながらできる限りチェックしてました」
シュウの傷は大したことはなかったが、身の安全を確認する時間も必要で、二週間ぐらいは静養しなければならなかったことにした。「静養」を終えて動き始めたシュウには、念のためケンの部下が一人、ついてきている。
シュウとキヨヒトがデュエットした曲「たった一つの」は無事リリースされた。シュウの正体を隠し、顔をいっさい映さずに作られたミュージックビデオもインターネット上で公開され、すでに百万回を超える再生数をたたき出している。これまでずっとソロでやってきたタダキヨヒトが初めて他人と組んだと、メディアの注目度も高い。
あまりに曲への反響が大きいので、熱が冷めないうちにシュウのデビューを早めようという話が出ており、今日はその打ちあわせだった。
キヨヒトの個人事務所の、明るく清潔なミーティングルーム。モノトーンでまとめられた部屋に、事務所のスタッフやレコード会社のスタッフなどが集まっている。
熱心にシュウを口説いただけあって、キヨヒトはシングル候補の曲だけではなく、アルバム一枚はゆうに作れるだけの曲をストックしていた。そのデモ音源を聴かせながら、キヨヒトが熱っぽく語る。これからどうするのか、具体的に話が詰められていく。
打ちあわせ中にポケットでスマートフォンが震えたが、シュウは誰からの着信かも見なかった。今後を決める、大事な打ちあわせ中だ。しかし電話は、何度もかかってくる。
予感があった。ケンからか。それとも、組織の誰かからか。胸が冷えるような感覚。
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