5

8/11
前へ
/88ページ
次へ
「ちょっと休憩しよう」  不意にキヨヒトが言った。肩をたたかれる。電話してこいということだろう。不意だと思ったのは、たぶん電話を気にしてしまっていたからだ。シュウはさっと頭を下げ部屋を出た。  廊下の隅でスマートフォンを取り出す。やはりケンからだった。折り返そうとすると、また着信。背後には、シュウを護るべくさりげなく男が立っている。男は、盗み聞きも見張ってくれるはずだ。 『今日会えないか?』  電話が繋がるなり、ケン。切羽詰まった声だ。なにがあったのか。 「いいけど、どうした?」  あの日から約二週間。そばにいてくれないか、と言ったケンにまだ返事はしていない。 『あとどのぐらいで会える?』  シュウは白い天井を仰いだ。首の傷が引きつれるのか、かすかに痛む。長くかかっても、二、三時間というところだろう。そう告げると、ケンはある有名ホテルの名前を口にした。 『待ってるから、終わり次第来てくれ』  固く締まった声でそれだけ言うと、電話は切れた。  もしかすると、抗争に決着がついたのか。いっさい余計なことを言わないのは、よくない結果に終わったのか。 「なあ、抗争は……」  振り返り、がっしりした背中に小声で訊いてみる。 「終わったんスか!」  食いつき気味に言う男に、シュウは苦笑した。自分にぴったりついている男が知るはずがない。ケンに話を聞くのが一番早い。 「分かんねえ、打ちあわせが終わったらケンと会うわ」  打ちあわせは二時間弱で済んだ。ボディガードの男と一緒に、拾ったタクシーで言われたホテルに向かう。 「お疲れさん、お前はもういいぞ」  部屋のドアを開けたケンは顔色もよくなく、かなり消耗していた。シュウの背後に立つ部下を、即座に無表情に追い返す。 「お前とホテルの部屋で会うなんて、出張みてえだな」
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加