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「ちょっと休憩しよう」
不意にキヨヒトが言った。肩をたたかれる。電話してこいということだろう。不意だと思ったのは、たぶん電話を気にしてしまっていたからだ。シュウはさっと頭を下げ部屋を出た。
廊下の隅でスマートフォンを取り出す。やはりケンからだった。折り返そうとすると、また着信。背後には、シュウを護るべくさりげなく男が立っている。男は、盗み聞きも見張ってくれるはずだ。
『今日会えないか?』
電話が繋がるなり、ケン。切羽詰まった声だ。なにがあったのか。
「いいけど、どうした?」
あの日から約二週間。そばにいてくれないか、と言ったケンにまだ返事はしていない。
『あとどのぐらいで会える?』
シュウは白い天井を仰いだ。首の傷が引きつれるのか、かすかに痛む。長くかかっても、二、三時間というところだろう。そう告げると、ケンはある有名ホテルの名前を口にした。
『待ってるから、終わり次第来てくれ』
固く締まった声でそれだけ言うと、電話は切れた。
もしかすると、抗争に決着がついたのか。いっさい余計なことを言わないのは、よくない結果に終わったのか。
「なあ、抗争は……」
振り返り、がっしりした背中に小声で訊いてみる。
「終わったんスか!」
食いつき気味に言う男に、シュウは苦笑した。自分にぴったりついている男が知るはずがない。ケンに話を聞くのが一番早い。
「分かんねえ、打ちあわせが終わったらケンと会うわ」
打ちあわせは二時間弱で済んだ。ボディガードの男と一緒に、拾ったタクシーで言われたホテルに向かう。
「お疲れさん、お前はもういいぞ」
部屋のドアを開けたケンは顔色もよくなく、かなり消耗していた。シュウの背後に立つ部下を、即座に無表情に追い返す。
「お前とホテルの部屋で会うなんて、出張みてえだな」
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