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鼓動が跳ね、シュウは思わず反射的に聞き返す。きつく抱きしめられたままで、ケンの表情は見えない。
「うん。もう大丈夫だ」
腕を解いてシュウから離れると、両手でがっしりとシュウの肩をつかみ、ケンは笑った。久々にこんなふうに晴れやかに笑うケンを見たような気がする。
「それは、勝ったってことか……?」
「まあ、勝ち負けで言ったら、勝ちだな。ドンパチもやらずに済んだし、落とし前としてヤツらは実質うちの傘下に入った」
勝ったのに、どうしてあんなに深刻そうな顔をしていたのか。脱力してシュウは思わずベッドに倒れこんだ。
「なんだよ、心配させんなよ。お前がそんなんだから、負けたかと思っただろ」
「すまん、相手の申し出があまりに意外だったし、緊張がなかなか解けなくて……」
申し訳なさそうに笑う顔が、どこか子供っぽい。わざとベッドを弾ませるようにして、ケンもシュウの隣に寝転んだ。
「生きてて、よかったわ」
ぽつりとつぶやく言葉に、実感がこもっていた。ベッドに半分顔を埋めて見る、ケンの横顔。すがすがしい表情で、しっとりと輝く瞳に力がみなぎっている。
「お前と抱きあって、生き返った気がしたよ」
ちらりとシュウを見て、ケンははにかむように笑う。
「なっ……。なんか、恥ずかしいわ」
シュウは照れて、ベッドに完全に顔を埋める。ケンのシュウへの接し方は、明らかに変わった。ケンは間違えたと言った。それを取り返そうとしているかのようだ。
間違えたのは自分も同じだと、シュウは思う。ケンにとって自分は特別らしいという自覚がありながら、その想いを軽く見て、ケンが与えてくれるものを気まぐれに食い散らかしてきたのだから。
「なあ、ケン」
シュウはケンの方に身体を向けた。寝転んだままで言う。
「これからもあの街で、一緒に生きていこうか」
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