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6
目を覚ますと、ケンの腕の中だった。いつの間にこんな体勢になったのか、ケンの左腕を枕にし、しっかり後ろから包みこまれていて、シーツの上に投げ出した左手にはケンの右手が重ねられている。
シュウはあくびをして目をこすった。途端にぎゅっと抱きしめられる。
「……起きてたのかよ」
少し照れながらも、シュウは自分を包むケンの腕に右手を添えた。
「お前こそ。さすがに寝れないか?」
「うん、緊張しちゃってるんだろうなあ」
ダイスケのことがあってから約一年が過ぎた。今二人は、ケンの部屋で一緒に暮らしている。キヨヒトのプロデュースでソロデビューしたシュウは、朝になれば初めてのライブツアーに出発することになっていた。
さすがに興奮しているのか眠くならなかったが、寝ないのはよくないとベッドに入った。だがやはり少しうとうとしては起きてしまう。
サイドボードの上の時計は、午前三時を指していた。二時間寝たかどうかというところか。シュウはケンの方を向くと、子供のようにごそごそとケンのぬくもりに埋もれた。ごく自然に抱き寄せるケンの腕。
二人で暮らすようになって、半年ぐらいになる。正直、ケンの想いが深すぎて、最初はとまどいや後ろめたさもあったが、今は恋人らしい暮らしが自然にできていると思う。
「俺、したくなってきちゃった。セックスしたらよく寝れるかも」
シュウは顔を上げ、ケンに軽くキスした。ケンはふっと笑い、シュウをもっと抱き寄せて深いキスをしかけてくる。シュウもケンの首に腕を絡ませながら応えた。
今でもふとした時に、ダイスケを思い出すことがある。ダイスケとの日々は遠いものになりつつあっても、こころに深々と刻まれているから、消えることはないだろう。
ケンはそれでもいいと言う。誰しもが様々な人達と関われないと生きていけず、多かれ少なかれ、過去に関わった人達への思いを抱えて生きている。それを忘れていたと、ダイスケの態度に教えられたと、率直にシュウに告げた。
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