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 ごちゃごちゃと薄汚い雑居ビルや店が並ぶトーキョーの歓楽街の一角に、瀟洒なビルが建っている。オフィス街にあれば映えそうに思えるそのビルは、一階に黒の重厚な扉が入り口となっているクラブがあり、確かにこの歓楽街の一員だった。色とりどりのネオンの光を浴びて、場違いな存在感を放っている。  帽子にオーバーサイズのTシャツ、ダメージジーンズ。ヘッドホンで音楽を聴きながら、ビルに向かって歩いてくる男。このあたりは治安が悪く、耳が塞がっているのは時に命取りになる。だが、この街で生まれ育った男はそんなことは気にしない。  彼の名はムラタシュウ。ビルに入っている会員制高級クラブ・HEAVENの、専属シンガー兼男娼だ。  もうすぐ日付が変わるが、相変わらず風はぬるい。そんな風に乗り、焼き肉屋の煙や生ゴミのにおいが流れてきて、シュウを包んではすぐ消える。  これからもっと暑くなれば、街で悪臭を嗅ぐ機会も増える。シュウがこの街で気に入らないことの一つだが、同時に生活の生々しさも感じて、その点では嫌いではない。  シュウはクラブを素通りしてビルの裏に回り、マンションの豪華なエントランスをくぐった。エレベーターに乗りこみ、ドア横のパネルにカードキーをかざして、最上階である二十階のボタンを押す。  ビルの上層階はマンションになっており、最上階は幼なじみのオオノケンが独占している。ケンは、この歓楽街を取り仕切る組織のボスだ。シュウとケンは同い年で、五歳ぐらいからの幼なじみだった。もう二十年以上のつきあいで、シュウはケンの部屋に自由に出入りしている。  リビングに入ると、風呂上がりらしいTシャツに短パン姿のケンが黒革のソファに座り、缶ビールを飲んでいた。  広々としたリビングには、黒で統一されたソファとローテーブル、それにテレビなどがあるだけで、がらんとしている。フローリングの床にはラグすら敷かれておらず、テレビは沈黙していて音楽もない。エアコンが入っていて、部屋の殺風景さもあってか寒いぐらいだ。 「おう、来たのか」
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