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列車から見る風景に、少し前までこの国が戦争をしていた気配は一つも見られない。聞こえてくる乗客の声も賑やかで、きっとあいつらも戦争があったことを知らない。知っていても、それはきっと、新聞の隅を飾るだけのものだったのだろう。
それでも辺境で、隣国との戦いはあった。俺はそこで戦った兵士だった。志願して、雇ってもらった。
戦争は、俺の友人みんなが死んで、そろそろ自分もか、という頃に終わった。
俺は生き残った。けれど、それを喜んでいいのか、わからなくなっていた。
四肢を飛び散らせた友人を見たし、治療も埋葬も間に合わず腐っていく友人も見た。
多くの友を亡くした。亡くしすぎた。
それだけではなく、故郷もなくした。
俺が兵士に志願したのは、その戦場となる辺境近くに、故郷があったからだった。
気付いた時には、故郷は何もかもがなくなっていた。話によると、ある日ここは激しい攻撃を受けて、誰一人逃げる間もなく更地にさせられたのだという。
故郷のために兵士になったというのに、俺はいつ故郷がなくなったのか知らなかった。いつ両親や兄弟は死んだのだろう。戦争が終わって故郷へ戻った時、初めて更地になっていることを知った。
後に聞いた話、あの戦争は、貴族達の金儲けのために行われたものだったらしい。
俺達は駒だった。貴族達が盤上でやるゲームの駒よりも価値のない、軽い命の駒だった。
何もなくなった俺は、どうしたらいいのかわからず、かといって国都に出たところで、復讐する気も起きなかった。
どこに行っても、何も見つからない。何もわからない。
そうこう彷徨っているうちに、気付けば最果ての駅までの乗車券を買って――海に行くことになって、偽物か本物かもわからない人魚の鱗を押しつけられていた。
夜も列車は走っていく。簡素なベッドで、俺は揺れを感じていた。
いっそこのまま、目的地に着くことなく走り続けてくれたのなら、俺はそれからどうしよう、なんて考えなくていいのに。
だが、ちらりと俺の小さな鞄を見れば、小瓶が頭を出している。
あの老人への感謝は一つもないが、この鱗は少なくとも俺にやることをくれた。それから話が本当なら、少しだけ同情した――何かに同情できるほどの余裕が俺に残っていたとは、俺自身驚いたが。
この鱗を、海にぶん投げる、それくらいはやってやろうと思った。
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