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プロローグ
だだっ広い田舎道を、あてもなく歩き続ける男がいる。
陽はあっという間に落ち、あたりはすっかり暗くなった。
夜虫の羽音と川のせせらぎだけが、静かに響く。
それでも、男はただひたすらに歩き続ける。
黒い革靴が砂利で傷だらけになり、穴が開いても、ただひたすらに。
まっすぐ見据えた視線は、何もとらえていない。
瞳の中には、ただ虚ろに漆黒が広がるだけ。
そんな抜け殻となった男にも、かつては名前があった。
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