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 そのすべてが、ある夜、唐突に焼滅したうだるような暑さの嫌な晩だった。  残業を終え、午後十一時ごろに帰路につくと、最寄り駅を降りたあたりから、なにやら騒々しい。  夜中なのに、消防車が何台も目の前を横切っていく。  けたたましいサイレンの音は、秀作が住んでいる住宅街へと吸い込まれていった。  「まさか…」  悪い予感が頭をよぎり、坂道を駆け上がると、自宅が真っ赤に燃え上がっているではないか。  「陽奈子ー! 」  野次馬を押しのけ、叫び続けるが、返事はない。  立ち入り禁止のテープをまたぎ、家に飛び込もうとすると、「死ぬ気か! あんた! 」と消防署員から制止された。  じっとりとした汗が額に滲む。  秀作は、震える手で陽奈子の携帯に電話をかけた。  いつもなら、三コールもあれば出るのに、全く繋がらない。  ただ、無機質な発信音だけが、頭の中にこだました。
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