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「名前何ていうの」  俺が尋ねると、彼は「そうたろう」と答えた。 「立つ風で(そう)。んで普通に太郎」 「綺麗な名前だね」 「……俺のことまだ女の子だと思ってる?」 「思ってないよ。颯太郎くん」  そういう目で見ているという意味では合っているのかもしれない。 「君は?」 「相坂凪」 「じゃあ凪」  颯太郎くんは目を細めてにこりと笑った。可愛い。  そういえば彼の年齢を聞いていなかった。俺と同い年ぐらいに見えるからそのように接しているが、もしも年上だったら失礼だ。しかし今更接し方を変えるのも気まずくなるだけのような気がして、彼から話題を振られない限りは黙っておこうと思った。  そもそも、この場限りの相手にそこまでの情報を話す必要もないだろう。これが本当にナンパなら色々質問したり連絡先を交換したりするものなのだろうけれど。 「そういえば、颯太郎くんは夜景見に行かないの?」 「これから行くつもりだった」  つまり自分が邪魔をしてしまったということだ。俺がごめんと謝ると、彼は笑って立ち上がる。 「凪は函館山から夜景見たことある?」 「あるよ。何度か。もう何年も登ってないけど」 「綺麗なの?」 「綺麗だよ」 「ここからでも十分綺麗だけど」 「スケールが違うから。一生に一度は登ってみるべき」 「そう。……凪は、これから予定は?」 「ないけど」 「じゃあ、一緒に……」 「えっ!?」  俺は瞠目した。酔いもさめてしまった。  ナンパまがいのことで出会った好みの男の子と一緒に夜景を見に行く。こんなイベントが突如訪れるとは思っていなかった。  俺はまるで恋愛初心者の小学生のようにドギマギと視線をさまよわせた。事実、俺は恋愛初心者の小学生と何も変わらなかった。 「俺と!? 俺でいいの!?」 「嫌だった? ごめん。男からナンパみたいなことされたの初めてだったから、多少なりともよく思ってくれてるのかと勘違いした」 「か、勘違いじゃないよ。一緒に行こう颯太郎くん」  俺は彼の手を引いて歩きだした。しばらくすると後ろからくすくすと笑う声が聞こえてくる。  しまった、手なんて繋いで、何をしているんだ。  慌てて離すと、今度は向こうからぎゅっと握られて、鼓動が速まった。
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