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やがて二人とも達して、心地よい余韻の中、毛布の中で身を寄せあった。
「はぁー」
「凪、どうしたの。ため息なんかついて」
「俺こんな幸せでいいのかなぁ」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
「俺と出会ってくれてありがと……」
「急に何言いだすんだよ」
彼はくすくすと笑った。
「まぁそれを言うなら、凪が俺のことナンパしたから出会えたんじゃない?」
「げっ! 恥ずかしいこと思い出させないでよ」
「当時は俺も同じようなことしてたからお互い様だよ。てか、凪ナンパとか普段絶対しないタイプでしょ」
「しない。あれが最初で最後だった」
「そんなに俺のこと気に入ってくれたの?」
「一目ぼれというか、直感だったのかもしれない」
「運命的な出会いってやつだね」
あ、と彼は何かをひらめいたかのように手を合わせる。
「凪はきっと、俺の運命を変えるためにあの場に現れてくれたんだ」
「変える?」
「だって、あの北海道旅行の少し前に、俺余命宣告されてたんだよ。ひとりぼっちで寂しく死んでくはずだった運命を、凪が変えてくれたんだ」
「俺は違う意見だけど」
「どんな?」
「つまり、もともと颯太郎くんは長生きする運命だったんだよ。で、俺と出会ったのも運命だった」
「…………」
顔を見合わせ、どちらからともなくふき出した。
「何? いい歳した男が二人そろって運命運命って。恥ず!」
「颯太郎くんが先に言い出したんじゃん」
ひとしきり笑って、そのあとも名残惜しさにとりとめのない会話をしていたが、やがて抗えない眠気がやってくる。
俺は、先にすやすやと寝息を立て始めた颯太郎くんの額にキスを落とした。
「おやすみ、颯太郎くん。また明日」
明日は休日だ。颯太郎くんと何をしよう。どこへ行こう。
そんなことを考えられる幸せに浸りながら、俺も心地よい眠りについた。
〈了〉
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