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Dearest Friend
「なあ。パオちゃん」
呼ばれたとき、すぐには自分のことだとわからなかった。ワタクシの名前は陳志明だ。パオではない。
「あんたいっつも豚まん食うてるから、今日からパオな」
彼らしい独特で平坦な口調だった。昼食に肉包子を食べていたワタクシの脳内に疑問符が浮かぶ。どういう意味か訊ねると、ワタクシにニックネームをつけたということだった。チョイスとセンスはともかく、日本ではじめてもらったニックネームなので大切にしようと思う。
特に説明はなかったが、彼がワタクシに珍妙なニックネームをつけた理由は察しがついていた。
ワタクシをいじめている四人組が、下の名前の一文字を重ねるという中華圏での愛称に倣ってワタクシを「ちんちん」と呼び始めたからだろう。それが日本で男性器を意味することは知っていた。あまりに子どもじみていて下らないので気にも留めていなかったが、大和は嫌なニックネームを上書きしてくれたのかもしない。日本語なら「饅頭」と呼ばれているのと同じだが、ワタクシは気に入った。
小山内大和は最初から癖が強かった。
彼との出会いを平たく説明するならば『いじめを受けているときに助けてくれた』だ。そこだけ切り取ると日本の少年漫画に出てくるヒーローそのものだが、実際は彼なりのオリジナリティがふんだんに盛り込まれていた。
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