Dearest Friend

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 途端に恐怖心が消えた。チョコとバナナがもっと味わえと訴えている。口の中に残る血の味をかき消してくれたこの味は一生忘れないと思った。されたことよりも、してもらったことを数えなさい。いつも母が言っていた言葉を噛み締めた。    大和は極端に口数が少なく、余計なことも肝心なこともあまり話さない男だった。彼は日本人だけど、日本人とコミュニケーションを取るのも苦手なようだった。関わるとまったく怖くはないし、冗談ばかり言う人なのに、笑顔がないせいで近寄りがたいと思わせてしまう。「大和はSmileの方がいいよ」とアドバイスしたら「俺は似合わんからパオが俺の分も笑といて」と言う。彼の発言は難解で困る。代わりに笑っても意味はないけど、とりあえず二人分笑うことにする。  難解と言えば、彼が描く絵もそうだ。絵を描くのは好きらしいが、人面馬のような不気味で真っ青な生物を仕上げ、ドラえもんだと言い張った。台湾人でもドラえもんぐらいは知っている。試されたのかと思い「これは違います」と抗議したが、彼は譲らなかった。もしかしたら、大和の目に映っているドラえもんは丸くて愛らしい猫型ロボットではないのかもしれない。彼の目にはなれないので確かめようもないけど。
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