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戦士の血
目が覚めると、見知らぬ天井があった。
「ガラク ───」
レックスだった。
顎が軋む。
首に熱い物を押し込まれたような違和感と痛み。
ジンジンと首の脈打つ感覚が生々しい。
そうだ。
私は朝、首を絞められて ───
「銃を扱ったことがあったのか」
言葉の意味が理解できなかった。
少しずつ意識がハッキリとしてきた。
「私、生きていますか?」
「ああ。
大丈夫だ。
まだ痛むだろう。
無理に喋らなくていいよ」
優しく語りかけた。
ガラクは、薄れゆく意識の中で暴漢の頭を撃ち抜いたらしい。
同時に外の2人を倒したレックスが駆けつけ、病院に運んだ。
徐々に記憶が蘇る。
不思議と恐怖はなかった。
「君の行動は正当防衛だ。
深く考えなくていい。
警察には私から話しておいたよ」
死を感じた刹那の記憶が、鮮明になってきた。
「私 ───
最後の力を振り絞って拳銃を持ち上げて、男の額に押し付けたんです。
ゆっくりと。
そして引き金を引きました。
自分の手じゃないみたいに動いたんです。
首の骨が軋んで ───
折れる寸前でした。
何も見えなくて、銃声が小さく聞こえました」
驚くほど冷静に状況を把握していた。
修羅場を乗り越えるためには、銃の腕前よりも度胸よりも「死を目前にしたときの冷静さ」が不可欠である。
文字通り死線をくぐるとは、死ぬことに他ならない。
暴漢を鮮やかに倒しても、殺し屋としては三流である。
一流ともなれば、死中に活路を見いだすのだ。
「ゼツの名を、母の名を呼んでいました。
名を上げると ───
どういう意味でしょうか」
レックスは俯いて目を閉じた。
ガラクは平穏無事に生きてほしかった。
だが、ゼツもレックスも名が売れすぎている。
いずれは真実を知ることになるだろう。
ゼツの思い、ラルフの苦悩を知るレックスは頭を抱えた。
そして、
「本当のことが一番いい ───
家に帰ったら、すべて話そう」
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