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「豚足と預言者――失われた島の謎を解く」
「じゃあ、次の質問だね。なぜ、ポックリさんがいるという情報が広まらないのかという点についてなんだけど、それについてはいくつか理由が考えられるよね」
「理由ですか?」
「うん、まずは第一に誰も信じていないということが挙げられるかな。第二に存在しないものとして考えられていることが挙げられるね。第三には遭遇したら危険だと思われていることがあげられると思う」
「危険というのはどうしてですか?」
「それは簡単さ。何せ相手は未知の存在だ。どんな能力を持っているのかわからない。それに何より、この話が広まったことによってパニックを引き起こす恐れもあるからね」
「なるほど、そういうことでしたか」
「納得したかい?」
「ええ、一応は……」
「そうか、それは良かった。では、そろそろ始めようか」
「はい、お願いします」
その後で彼に促されるままに椅子に座ってペンを手に取った後で深呼吸した後でゆっくりと話し始めた。
「まず最初にお伝えしておきますが、私は専門家ではありませんのでその点をご了承ください」
「わかった」
「それでは早速ですが、問題を拝見させていただきましたところ非常に興味深いものがありましたので今回はこの問題を取り上げたいと思います」
そう言うと俺は持っていたカバンの中から資料を取り出すとテーブルの上に置いた。それを見て彼が尋ねてきた。
「これがどうかしたのかい?」
「いえ、大したことではないのですが、少し気になる点がありまして調べてみたんです」
「へえ、それで結果はどうだったんだい?」
「その前にお聞きしたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」
「何だい?」
「先日お伺いした話では、貴方はこの島の歴史や風習に詳しいということでしたが間違いありませんか?」
「もちろんだとも」
「そうですか、それを聞いて安心しました。それならご存知だと思いますが、今からおよそ100年前、当時まだ10代だった一人の少年が本土から移住してきた際に初めてこの地を訪れた際、住民に対して次のように言いました。『ここは天国のような場所だ』とね」
そこまで言うと彼は真剣な表情になった後でこう尋ねてきたので答えた。
「確かにそんな話は聞いたことがあるな……それで?」
「そして、その言葉通りに当時の住民たちはとても平和で豊かな生活を送っていたそうです。ところが、ある時を境にして突然不幸に見舞われるようになります。原因不明の疫病によって次々と人々が亡くなっていくようになったからです」
「なるほどね……」
相槌を打ちながら聞いていた彼だったがここで一旦話を区切ると続きを促すかのようにこちらを見たので再び話し始めた。
「最初はただの偶然だろうと思われていたようですが次第にそれが繰り返されていくうちにいつしか誰もが口を閉ざしてしまうようになりました。なぜなら、下手に喋ってしまうと自分も同じ目に遭うかもしれないと思ったからです」
そこで一息つくと間を置いてから先を続けた。
「やがて人々は互いに疑心暗鬼になり始めて最後には殺し合いにまで発展してしまう始末でした。それでも尚、戦いが終わることはなかったんです。何故なら彼らは皆んな心の奥底では互いを憎んでいたのですから……しかし、そんなある日のことです。1人の少女が彼らの前に現れたことで状況は一変します。彼女はこう言ったのです。『皆さん、どうか落ち着いて下さい。私が皆さんをお救い致します』とね」
俺がそう言うと彼は感心した様子で頷きながら言った。
「なるほど、つまり君はこう言いたいんだね? その少女は神の使いであると同時に預言者でもあるというわけか」
「その通りです。実際、彼女の言葉に従って争いが収まっただけでなくその後も順調に復興を遂げることができたのですからね」
「素晴らしい話だと思わないかい?」
「全くもって同感です。ところで話は変わりますが、貴方にとって一番大切なことは何でしょうか?」
唐突にそんなことを聞かれたので戸惑いながらも答えることにした。
「そうだなあ……やっぱり家族や友人と過ごす時間かな」
「なるほど、他にはありますか?」
「他にねえ……強いて言えば美味しい食べ物とかかな」
それを聞いた途端、思わず吹き出しそうになったものの何とか堪えることに成功した後で再び尋ねた。
「あのう、つかぬことをお聞きしても宜しいでしょうか?」
「ん? ああ、構わないよ」
「ありがとうございます。では、遠慮なく聞かせていただきますが貴方の言う『美味しい食べ物』とは具体的にどのようなものなのでしょう?」
その質問に彼は不思議そうな顔をした後で逆に尋ね返してきた。
「そんなこと聞いてどうするんだい?」
「いや、単純に気になったものですから」
「ふうん、まあいいけどね。そうだね、例えば豚足なんかは最高だよ」
「はあ、豚足ですか……」
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