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陰陽術
「そう、あれこそまさに究極にして至高の一品と言っても過言じゃないと思うよ」
「……そうですか」
(まさかとは思うがこの人って……)
心の中でそう思いながらも平静を装っていると今度は別の質問をされた。
「ところで君の方はどうなんだい?」
「え? あ、はい、私の場合はですね……」
2人の間に沈黙が訪れた後、しばらくしてから口を開いた。
「……すみません、今の時点では何も思いつきません」
「そうか、まあ仕方がないよな」
「そうですね……」
お互いに顔を見合わせると軽く頷いてから同時に立ち上がった後で握手を交わした後で部屋を後にしようとしたのだが不意に呼び止められたので振り返るとそこには満面の笑みを浮かべた彼の姿がありこう言ってきた。
「今日は本当にありがとう! お陰で助かったよ!」
その時だった。ラジオやテレビやスマホが一斉に警報音を鳴らし始めた。
『緊急空襲警報です! ミサイルが来ます! 繰り返します! ミサイルが来ます』それを耳にした途端に彼の顔が真っ青になるのを見た私は慌てて言った。
「早く避難してください!」
「わ、わかったよ……!」
すると、彼は慌てふためいた様子で部屋から出て行ったかと思うとそのまま走り去ってしまった。その後ろ姿を見送った後で私もすぐにその場を後にしたのだった。
1週間後(現地時間)午前11時30分頃――。
沖縄県那覇市内にあるアメリカ空軍基地内に存在するとある建物の一画にある部屋で
「ふう……何とかここまで漕ぎ着けたか」と言いながら額の汗を拭った後でマウスを操作して文書ファイルを開いた。文字通り関連する証拠をそれぞれ線で結び一つの大きな系統樹にする。その頂点に一つのキーワードがあった。『ポックリさん』だ。
「さて、いよいよ本番だな」
そう言いながら気合を入れると一気に書き進めていった。やがて最後まで書き終えたところで大きく息を吐くと改めて見直してみた。すると、その内容は次のようなものだった。
Q.あなたは沖縄県那覇市内に実在する米軍基地の存在を知っていますか? A.知っている B.知らない C.知らない D.知っている(ただし、機密事項 問題文を読み終えると画面上に表示された選択肢のうちCを選んだ上でさらに文章を読んでいった。
・1945年8月6日に広島へ原爆投下された直後に出現したとされる霊的存在である。
・見た目は老人だが、実際には子供の姿をしているとも言われている。
・出現条件は不明であり、遭遇する確率は極めて低いとされている。
・その正体については諸説あるもののどれも信憑性に欠けるものばかりだという。
・そのためその存在そのものを信じる者は殆どおらず、単なる噂話に過ぎないと思われている。
・もし、仮に本物が存在したとしても、それを認識することは不可能なのではないか。
「うーん、難しいなあ……」
呟きながら腕を組んで考え込んでいると突然部屋のドアが開いて誰かが入ってくるなり声をかけてきた。
「おい、何やってんだよ?」
驚いて顔を上げると目の前にいたのは友人のAだった。彼は呆れた様子で溜息をつくと言った。
「お前さあ、さっきから何をやってるんだよ?」
「えっ、ああ……ちょっと調べ物をね」
「調べるも何も、今は夏休みだろ。だったら勉強なんてせずに遊べばいいじゃねえか」
「それはそうなんだけどさ、ほら、受験生だから少しでも知識を増やしておきたいんだよ」
「はあ、真面目だねえ……」
「そういうお前はどうしてここに?」
「決まってるだろ、暇つぶしに。ところでお前が探しているポックリさんってこれか?」
彼はいきなり古びた十円玉を取り出した。
「なんだそれ?」
「お探しのブツだ。ポックリさんというのは室町時代から伝わる陰陽術だ。古銭を半紙の上に置いて参加者が指を添えるんだ。そして滑らせる。すると殺すべき相手が名指しされて、殺人の願いが成就するんだ」
「の、呪いだって?! そんな、非科学的な!!」
「非科学の歴史の方が科学よりはるかに長いんだよ。この世にはまだまだ謎がある」
「で、そのポックリさんという陰陽術が仮に実在するとして、有効であるとする。施術者は誰なんだ? 呪う相手は誰だ?」
「知らん。そもそも、これは都市伝説のようなものだからな」
「何だそりゃ」
「実際に見たという証言はある。しかし、証明できない」
「そりゃそうだろ。見間違いに決まっているじゃないか」
「いいや、違うな。必ず存在している」
自信満々な彼を見て、私は少し呆れながら尋ねた。「その実在するかどうかわからないポックリさんを確実に倒す方法があったらどうなる?」
「はぁ? 証明できないものをどうやって退治するんだ?」
彼は肩をすくめた。その隙をついて私は彼を組み伏せた。
「おいっ!痛いじゃねえか!!」
「あなた、たった今、痛いと言いましたね?」
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