ポックリさんよりも恐ろしいもの

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ポックリさんよりも恐ろしいもの

「それがどうした? さっさと離せ」 懇願を無視して私は彼の腕をねじあげる。 「どうですか? ポックリさんより痛いでしょう? このままだと骨が折れますよ」 さらに力を入れた。 「ぐあぁー。やめてくれぇ。わかったわかった。ポックリさんよりお前の腕力の方が怖いよ」 「そうですか。認めるんですね?」 「何をだ?」 「ポックリさんより怖いものがあると」 ボキボキと骨が鳴る。 「ぐはあっ! やめてくれ。怖い怖い。痛い痛い」 「では、私と一緒に宣言してください。ポックリさんは腕力に劣る」 「ぐ、わかった。ぽ、ポックリさんは腕力に負ける」 私は彼の手を離してやった。 「いってぇーな。本当に、殺す気かよ」 彼が手をぶらぶらさせていると、どこかでガラガラと何かが崩れる音がした。 「どうやらポックリさんが死んだようですね」 「」 「これでようやくこのくだらない戦争も終わりますね」 「」 「さて、そろそろ帰りますか」 「」 こうして戦乱の日々に平和が訪れた。もうポックリさんが猛威をふるうことはないだろう。 なぜなら、彼は私が倒したのだから。 3ヶ月後――。 20XX年12月24日――この日、あるニュースが全世界を駆け巡った。『沖縄の米軍基地が突如爆発。多くの死傷者が出た模様』というものだった。 それを知った俺は慌ててテレビをつけるとアナウンサーが興奮気味にこうまくしたてるのを目にした後で電源を切った。それから再びノートパソコンの画面に目を移すと大きく息を吐き出してから呟いた。 「まさか本当に上手くいくとは思わなかった……」 事の発端は3ヶ月前に遡る――。 あの日、友人と共に沖縄県を訪れた際に偶然にも出会った老人から教えられた内容について半信半疑のまま検証を続けていたところ、1つの結論に至ったのだ。 それは、沖縄県に存在する米軍基地こそが例の事件を引き起こした根源であり、また同時に彼らがその事件に対して何ら対処しなかったことが惨劇を引き起こす要因となったということである。 そこでさっそく行動に移すことにした私はまずは手始めにネット上でまことしやかに囁かれている都市伝説の1つ、「ポックリさん」の存在を確かめることにした。 その後、沖縄県内にある複数の図書館を訪れて資料集めを始めると1週間かけて必要な情報を集め終えた後でそれらを元にして今回の事件に関する報告書を作成し終えたところで早速、本土にある本部へと送付することにしたのだが、その際にふと思い立った私はさらなる調査を行うことにした。具体的には、当時の状況を調べるべく、当時を知る関係者へのインタビューを行うことである。ただ、これについてはすぐに頓挫してしまうことになった。というのも、既に彼らの多くが亡くなっていたからである。ある者は被爆の影響で病魔に襲われ、またある者は原爆投下時に死亡したことで真相究明を求めることも叶わず、戦後70年以上も経過してから無念の死を遂げたからだ。 それでもなお、諦めずに粘り強く続けた結果、奇跡的に生き永らえた人物を発見することに成功した。その人物こそ、あの老師だった。 「貴方はあの事件の生き残りなのですね」 「ああ、そうだとも。あの時、儂らは確かにあの場にいたよ」 老人はゆっくりと頷いてから続けて言った。 「君は一体何を調べているんだね?」 私は正直に答えた。 「いえ、ただの好奇心ですよ」 すると、老人はしばらく黙り込んでからやがて口を開いた。 「君が知りたいことは全てここにあるよ」 そう言って懐から古い書物を取り出すとそこに寛永通宝が張り付けてあった。「是すなはち、ぽつくりさん也」と記されている。それを見た瞬間、背筋がゾッとした。何故なら、その文言は私が調べたものと全く同じだったからだ。 「一体どういう意味なんです?」 思わず尋ねると老人はこう答えた。 「昔々の話だが……ある日のこと、一人の男が不思議な夢を見たそうな。夢にはこう記されていたそうだ――」
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