「ポックリさん退治の専門家」が明かす、都市伝説の闇

1/1
前へ
/25ページ
次へ

「ポックリさん退治の専門家」が明かす、都市伝説の闇

――翌日、男が目を覚ますと枕元に一枚の紙が置かれていた。そこにはこう書かれていたという――『ぽっくりさんに殺されます』それを見た男は恐怖のあまり金縛りに遭ったかのように動けなくなってしまったそうな。しばらくして何とか起き上がれるようになったものの依然として頭の中は混乱したままで何も考えることができなかったらしい。ところが、しばらくすると今度は奇妙なことが起こり始めた。まず最初に耳鳴りが始まったかと思うと徐々に音が大きくなっていき、終いには激しい頭痛まで引き起こしてしまったというのだ。そんな最中でも男はまだ自分が置かれた状況を理解できずにいたが、やがて頭の中に声が響いてくるのを感じたらしい。初めは何を言っているのかわからなかったそうだが、次第にその声ははっきりと聞こえるようになったそうな。その内容というのがこうだ――『今すぐ逃げろ』という内容だった。 「強迫神経症の典型的な病状ですね。『ポックリさんに殺される』と言われたことがきっかけで発症したんですね。当時は医学も科学も未発達だった。だから『ポックリさん』という得体の知れない存在を想像力で補強し本物の脅威として恐れてれてしまった。呪いなんてそんなもんです」 「……つまり、お前は我々が恐れた呪いなど存在しないということかね?」 「当たり前じゃないですか。あれは人間の思い込みによって生まれたものであって本物の怪異なんかじゃないんですよ」 「……そうかもしれんな」 老人は大きく頷いた後で尋ねてきた。 「ところで、どうして今になってこんな話を?」 「そうですねえ……まあ強いて言えば興味本位ですかね」 すると彼はニヤリと笑ってから言った。 「なるほど、そうか」 それからというもの我々は頻繁に連絡を取り合うようになった。そしていつしか親交を深めていくうちにお互いを愛称で呼び合うようになるまでに打ち解けていたのだった。そんなある日のことだった。彼は私の自宅を訪ねてくるなりこう言った。「ポックリさん退治の専門家」になってみないか?との誘いを受けて二つ返事で了承すると早速詳しい説明をしてもらうことにした。すると彼は次のように語った。今からおよそ300年前の江戸時代末期において時の老中である安藤信正公が行ったとされる大改革の中に江戸城再建のための人柱が存在したことをご存じだろうか?もちろん知っていようがいまいが構わないのであるが。 どうやら、落ち着く暇もなく新しい怪異に挑戦しなければいけないようだ。 やれやれ、人生は小説よりも奇なりだ。 「わかった。正体を暴きだして必ず退治してやるよ」 「お前、怖い奴だな」 「そうかもな」 「あはははは」 2人の笑い声が響く中、今日もまた1つ、新たな都市伝説が誕生したのだった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加