首里城の夜、青白い光が漏れる! 噂の真相

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首里城の夜、青白い光が漏れる! 噂の真相

それを聞いたカイテルは思わず目を剥いた。彼が想定していた事態の一つが現実となったのである。つまり、敵軍による待ち伏せだ。それもかなりの規模に違いない。もし、このまま前進を続ければ艦隊は大きな損害を被ることになるだろう。いや、それどころか全滅の憂き目に遭うかもしれない。それだけは何としてでも避けねばならないことだ。 「全艦反転180度!」 カイテルの命令を受け、ドイツ艦隊は一斉に回頭を開始した。その様子を見て、南雲はにやりと笑った。 「よし、いいぞ」 彼は腕時計に目をやった。時刻は午後0時ちょうどを指している。あと数分で日没だ。そうなれば、こちらのものだ。 それから間もなく、太陽は完全に沈んだ。同時に水平線の彼方に無数の光が現れたかと思うと、それらは見る間に数を増やしていった。まるで星空を埋め尽くすかのように広がる光の点――それが敵味方識別灯の光だと気づくまでに時間は掛からなかった。その光景を見た者たちは皆一様に言葉を失った。あまりに幻想的で美しい光景だったからだ。しかし、いつまでも見惚れているわけにはいかない。敵機はすでに射程距離に入っているはずだからだ。南雲は通信機を手に取り、叫んだ。 「戦闘機隊は直ちに迎撃を開始せよ!」 7. 1945年7月19日――。 現地時間午前9時30分(現地時間)――。 沖縄本島沖合い約200キロ地点に浮かぶ大日本帝国海軍の航空母艦赤城の艦橋で、一人の男が双眼鏡を構えていた。その男の名は山本五十六海軍大将だ。かつて連合艦隊司令長官を務めたこともある人物である。 そんな彼に、部下の男が声をかけた。 「長官、もうすぐ時間ですが……」 「うむ」 山本は小さくうなずき、視線を前方に向けたまま答えた。 「今のところ異常はないようだな」 「……はい」 男は少し間を置いて返事をした。その表情には微かな不安の色が見て取れた。無理もないだろう。これから起きる出来事を知っているのは彼だけなのだから……。 8. 1945年7月19日――。 那覇市の南南東に位置する識名園は、琉球王朝時代に造られた庭園である。園内には池泉式と呼ばれる形式の大小様々な池が配置されており、そこには色とりどりの錦鯉が泳ぎ回っている。また、敷地内には茶屋や茶室なども建てられているそうだ。そして、それらの建物の中でも特に目立つのが、赤瓦屋根に白い壁の建物だ。この建物こそ、あの有名な首里城である。 さて、実はこの首里城にはある噂があることをご存じだろうか? それは「夜になると城の外壁にポッカリと穴が開き、そこから青白い光が漏れてくる」というものである。その話を聞いた人々はみな口をそろえてこう答えるのだそうだ。 「ああ、あれね。確かに見えるよ」 9. 1945年7月18日午前8時45分(現地時間)――。 那覇港沖を航行中の商船SボートVII号では、乗組員たちが慌しく動き回っていた。彼らの手には銃火器が握られている。中には重機関銃を抱えている者もいた。どうやら臨戦態勢を整えているようだ。甲板上では船員たちが忙しく走り回り、大声で怒鳴り合っている。その様子を物陰から窺う者がいた。言うまでもなく天城美沙子大佐である。彼女は険しい表情を浮かべながら小声で呟いた。 「そろそろ始まったみたいね」 10. 1944年12月8日――。 この日、日本本土では連合国によるポツダム宣言受諾が発表された。これを受けて日本政府は正式に降伏を宣言した。これにより第二次世界大戦は日本の敗北という形で終結することとなったのである。しかし、この歴史的事実を知る者はまだほとんどいなかった…… 11. 同年同月20日午後2時40分(現地時間)――。 ドイツの総統官邸には重苦しい空気が漂っていた。理由は明白だった。つい先ほど、ドイツ軍がシチリア島に上陸を開始したという報告が入ったばかりなのである。さらに悪い知らせもあった。すでに陸軍部隊が同地に上陸しているが、戦況は思わしくないらしいのだ。このままではいずれドイツ軍が押し切られてしまうことは目に見えていた。そこでヒトラーは決断を下した。 「止むを得ん。我々はこれよりシチリア島より撤退する」 12. 同年同月20日午後3時30分(現地時間)――。 南雲中将率いる第一航空艦隊は南下を続けていた。目指すは日本本土だ。すでに日本本土の制空権は連合軍の手に落ちているため、陸地に近づくには危険を伴うことになる。しかし、今はそんなことを言っていられる状況ではなかった。一刻も早く、日本の首都東京を制圧しなければならないのだ。でなければ、祖国を守ることなどできはしないのだから……。 13. 同日同時刻――。
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