総統官邸の重苦しい空気! シチリア撤退の決断

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総統官邸の重苦しい空気! シチリア撤退の決断

ドイツ軍の撤退を知ったイタリア軍は歓喜した。これで当面の危機は去ったからである。もっとも、手放しで喜ぶわけにはいかなかった。何しろ、彼らも甚大な被害を被ってしまったのだから……。 14. 同日同時刻――。 その頃、ドイツ海軍の大型潜水艦U-511の艦内でも歓声が上がった。ドイツ海軍の誇る巨大潜水空母グラーフ・ツェッペリン号が無事に帰還したのである。しかも、その戦果たるや凄まじいものだった。なんと、イギリス海軍の主力艦隊を壊滅させたというのだ! 15. 同日同時刻――。 イタリアのムッソリーニ首相は安堵のため息をついた。一時はどうなることかと思ったが、何とか最悪の事態だけは回避できたようだ。それにしても、ドイツ軍は本当によくやってくれた。まさか、これほどまでの大戦果を挙げるとは想像すらしていなかったほどだ。彼は心の中で感謝の言葉を述べた後、傍らに控える側近に話しかけた。 「ところで、例の物はどうなっている?」 16. 同年同月20日午後5時10分(現地時間)――。 戦艦ビスマルクに座乗するドイツ第三帝国の元首アドルフ・ヒトラー総統のもとに一通の手紙が届いた。差出人はSS上級大将である。内容は次のようなものであった。 『シチリア島上陸作戦成功につきご報告申し上げます』 その手紙を読んだヒトラーはニヤリと笑った。どうやら作戦の第一段階は成功したようである。彼は続いて別の手紙に目を通した。それは北アフリカ戦線における連合国軍総司令官アイゼンハワー将軍からのものである。それによると、アフリカ大陸に上陸した米軍を中心とする枢軸国軍によってチュニジアおよびリビアは完全に制圧されたそうだ。ドイツ本国に対して進撃してくる気配は全くないらしい。どうやら、彼らは中東方面への侵攻を諦め、ヨーロッパ方面へ兵力を集中させるつもりのようだ。しかし、これはこちらにとっては好都合だった。なぜなら、今のドイツにとって最も脅威となるのはソ連だからである。つまり、奴らさえ排除できればアメリカとの戦いに専念できるというわけだ。だが、それも時間の問題であろう。何故なら、今やソ連の力は風前の灯火なのだから……。 17. 同年同月21日午前1時15分(現地時間)――。 地中海のとある海域を進むドイツ海軍の装甲艦アドミラル・シェーアの艦橋で、カイテル元帥は苛立たしげな表情で海図を眺めていた。彼の視線の先にあるのは日本列島だ。そこは現在、ソ連軍の勢力下にある場所であった。現在のところ、ソ連軍の動きは見られないようだが油断はできない。いつ何時、牙を剥いてくるかわからないからだ。カイテルは忌々しげに舌打ちした。 (クソッ、なぜこんなことになってしまったんだ!?) カイテルの脳裏をよぎったのは昨日の会議のことだった。あの時は誰もが勝利を確信していたはずだ。それなのに、今ではすっかり立場が逆転してしまったではないか……。カイテルは再び舌打ちをした。 (まったくもって腹立たしい限りだ!) 彼は怒りに任せて拳を振り上げたが、すぐに思い直したように腕を下ろした。いけない、冷静さを失ってはいけないな……。まずは現状を把握する必要がある。そのため、こうして偵察部隊を派遣しているのだから……。 18. 同年同月22日午前0時30分(現地時間)――。 午前0時30分になったことを確認した山本五十六は椅子から立ち上がると、静かに口を開いた。 「諸君、いよいよその時が来たようだ」 その言葉に室内がざわついた。無理もないだろう。何しろ、これから何が起きるのか誰も知らないのだから……。山本は言葉を続けた。 「知っての通り、我が国は現在重大な危機に直面している。そう、ソビエト連邦による侵略だ。そして、今この瞬間にも奴等は着々と準備を進めつつあるに違いない。そこで私は考えたのだ。どうすればこの危機を乗り越えることができるのだろうかと……」 彼の言葉に皆の視線が集まった。まるで続きを促すかのように……。すると、山本は小さくうなずいた後で話を続けた。 「答えは簡単だ。こちらから攻め込んでしまえばいいのだ!」 20. 同年同月23日午前7時40分(現地時間)――。 ドイツ空軍の基地があるベルリン近郊の街キールでは、早朝にもかかわらず多くの人々が通りに集まっていた。彼らの目的はただ一つ、今まさに離陸しようとしている飛行機を見るためである。やがて、プロペラの音が響き渡る中、双発機はゆっくりと滑走路を走り始めた。そして、徐々にスピードを上げながら上昇していき、あっという間に上空へと消えていったのだった……。その様子を見ていた人々は皆一様に感嘆の声を上げたり、拍手をしたりしている。そんな中、一人の男がポツリと呟いた。 「やれやれ、今日も無事に終わったか」
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