世界大戦の危機と、ホワイトハウスを訪れた少女

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世界大戦の危機と、ホワイトハウスを訪れた少女

それを聞いた瞬間、周囲からざわめきが起こった。当然の反応であろう。何しろ、いきなり外国人の名前が出てきたのだから……。それでも、どうにか冷静さを保ったままでいた一人の男が言った。「そうか、いい名前だね。それで、君は一体どんな用があって俺たちの前に姿を現したのかな?」 それに対して彼女は次のように述べた。 「実は折り入ってお願いがあるのです」 「頼み事だって?」 「はい、そうです」 「ふむ、そういうことならとりあえず話を聞かせてもらおうかな」 そう言うと男は彼女に席に着くように促した。そして、自らも椅子に腰を下ろすと早速本題に入った。 「それで、いったい俺に何をしてほしいって言うんだい?」 すると、彼女はゆっくりと話し始めた。 「私が暮らしている世界では今現在、未曾有の危機に直面しています。その危機とはつまり――」 そこでいったん言葉を切ると、彼女は周囲を見回してから再び話し始めた。 「――世界大戦です」 23. 同年同月24日午前9時30分(現地時間)――。 アメリカ合衆国首都ワシントンDCにあるホワイトハウスでは大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトが執務を行っていた。ちなみに、大統領は歴代一貫して共和党員から選ばれていることで知られていることで知られている。もちろん、これは彼が共産主義を嫌っているからという理由によるものだ。まあ、そんなことはどうでもいいとして……。とにかく、この日もいつものように書類の山を相手に格闘していると、突然ドアをノックする音が聞こえてきた。その直後、秘書の女性が入ってきたかと思うとこう告げた。 「失礼します。緊急の報告が入りましたので、ご報告させていただきます」 それを聞いた大統領は怪訝そうな表情を浮かべた。というのも、つい今しがたまで何の連絡も受けていなかったからである。一体何があったのか? そんな疑問を抱きつつも彼は尋ねた。 「それで、一体何があったのかね?」 「はい、実は……」 そこで女性は一旦言葉を切り、呼吸を整えてから再び話し始めた。 「本日未明、日本本土より南に位置する南西諸島において大規模な戦闘が発生しました」 それを聞いて大統領の顔色が変わった。彼は続けて質問した。 「その戦闘というのは具体的にどのようなものだったのかね?」 「詳細はまだ不明ですが、どうやら日本軍とドイツ軍が衝突したものと思われます」 「なに!?」 大統領は驚いた様子で聞き返した。というのも、つい今しがたまで何の連絡も受けていなかったからである。何ということだ! まさかドイツが日本に戦争を仕掛けてくるとは思わなかったぞ……! いや待てよ? もしかしたらこれはチャンスなのかもしれないな……。そう思った俺はすぐに行動に移った。まずは外務大臣に連絡を取り、現地の情報を集めることにしたのである。その結果わかったことは次の通りである。まず、現地には米軍の姿は見られなかったらしい。 さらに、両軍の間で激しい戦いが繰り広げられた形跡もないというのだ。このことから察するに、おそらく日本側が一方的に攻撃を加えたものと思われる。要するに、ドイツの勘違いかあるいは何かの手違いによって起こったものと考えるべきだろう。だとすれば、わざわざそれを騒ぎ立てることもないのではないか……? そこまで考えたところで大統領は思考を中断させた。いや、待て! もしかするとこれはチャンスなのかもしれないな……。そんなことを思っていると、不意にドアがノックされたかと思うと秘書の女性が入ってきた。そして、開口一番こう言ってきたのだ。 「あの、お客様がお見えになっておりますが……」 その言葉を聞いた俺は一瞬首を傾げたものの、すぐに思い直して返事をした。「誰だ?」 「それがですね……」と言いながら彼女は困惑した表情で続けた。「なんでも『マオ』という名前の少女だと言っているのですが……」 それを聞いた瞬間、俺の脳裏に嫌な予感が走った。おいおい、それってもしかして昨日のあの子じゃないのか!? そう思い至った俺は急いで立ち上がると、慌てて玄関へと向かった。そこには案の定と言うべきか、昨日出会った少女の姿があった。しかし、その様子は明らかにおかしかった。まるで幽霊にでも出くわしたかのような表情をしていたのだ。おまけに身体全体が小刻みに震えているようにも見える……。さすがに気になった俺が声をかけようとしたその時、突然彼女が叫んだかと思うと脱兎のごとく駆け出していったのだ。そして、あっという間に姿が見えなくなってしまったのだった……。それからしばらくして我に返った俺は呆然と立ち尽くしていた。いったい何だったんだ?今のは……。そんなことを考えていると背後から声をかけられた。振り向くとそこにいたのは例の女性だった。彼女は言った。「あの、何かあったのですか?」
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