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99歳の彼女
「だから、ヤラハタはまずいって!」
もう何度目だろうか、天真からこの話をされるのは。
「僕にとっては大したことじゃない」
「お前にとっては大したことじゃなくても、俺のツレにヤラハタがいるってのがまずいの!」
ヤラハタ、ヤらずにハタチ。
二十歳になっても女性経験がない男性のこと。つまり、僕のことだ。
「だったら、僕と友達をやめればいい」
「つれないこと言うなよ。オレ、宗介のこと好きだから、それは無理なんだよ」
なぜか僕は、自分とは正反対の天真に気に入られている。
「そういう行為が早い方が社会的に評価されたりする?」
「そんなことねーけど、一般的にはダサいと思われるぜ」
「一般論なんてどうでもいいよ。世間は世間。僕は僕。僕の判断基準は20年で積み上げた僕の倫理観だけ」
このような考えを持つ僕は真宮宗介。二十歳の大学2年生だ。田舎で生まれ育ち、大学進学をきっかけに東京へ出てきたのだが、そこで天真と知り合った。
趣味は読者。というか、本以外は興味がないのでテレビもネットも見ない。スマホも連絡用に持ってるだけ。こんな性格なので、当然女性経験もない。
「宗介のそういうところ、好きだわ」
で、この男が水無瀬天真。学年は同じだが、一浪しているので年齢は僕より1つ上になる。
性格は僕と正反対。社交的で女性にモテるので、友達も多く、女性経験も豊富。
「あんたら食堂でヤラハタだの、声でかいっつーの!」
そう言いながらサンドイッチ片手に天真の横に座ったのが、一色菜子さん。天真の友達だ。
友達の友達は友達。という理論の持ち主。その理論に従い、一色さんは僕とも仲良くしてくれる。
「おー菜子。お前からも言ってやってくれ!ヤラハタはダサいって」
その言葉を無視し、サンドイッチを一口食べてから、一色さんはスマホを僕達の目の前に置いた。
「これ見に行こうよ」
スマホ画面には映画広告が映されていた。『告白』とあった。
「告白をテーマにした愛の物語!宗ちゃん、そういうことしたいなら、まず恋愛の勉強しないとね」
「お前の目当て、それだろ」
天真は1人の男性を指差して言った。主演俳優さんだろうか。渋い感じの人だった。
「バレたかー。西島雅樹。大好きなんだよ。渋すぎ!やっぱ男は30代後半からだね」
「お前の好みなんて知らねーよ。1人で行け!」
「あー!冷たい!こういうの1人で行くとさ、あいつ、寂しい女だなーとか思われんじゃん」
「誰もお前のことなんか見てねーよ。気にしなくても大丈夫!宗介、行こーぜ」
「もう!宗ちゃんは?」
「ごめん。僕もパス。講義始まるから行くね」
「薄情ものー!」
一色さんの言葉を背に受けながら、僕たちは歩き出した。
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