99歳の彼女

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「宗介、ちょっとスマホ貸して」 僕は言われるまま、スマホを渡した。 「ロック…外れてるな。ちょっと待ってて」 歩きながらスマホを操作する天真。 「はい。これ登録しといたから、後で見てみろよ」 画面には何かのアプリ画面が表示されていた。 「これ何?」 「マッチングアプリだよ。簡単にヤれる女多いから、すぐヤれるぜ」 聞いたことはあった。男女が簡単に出会える、出会い系というやつだ。 「こんなの興味ないよ!」 消そうと思ったが、消し方が分からない。 「登録しただけだから不都合とかねーよ。ヤる、ヤらないは別として、社会勉強だと思ってちょっと使ってみな。二十歳になったし、新しい体験も必要だろ」 よく見ると、本当に登録されていた。名前は『ヤラハタ』。年齢は20に設定されていた。 「ほんとに迷惑…」 言おうとすると、メッセージを受信した。 『ヤラハタみっけ!お姉さんが初めてになってあげるー!』 天真が覗き込む。 「な?若い男探してる女多いんだよ。宗介は童貞っつーブランドもあるから、お誘い多いと思うぜ」 「こんなのおかしいよ。そういうことは、好きになって、相手のことをよく知って…順序があるだろ?」 僕が20年で積み上げた倫理観では、そうなっている。 「そんなの関係ねーよ。ヤりたい女多いんだって。特に人妻なんてヤりたい盛りだぜ」 「ひ、人づ…」 驚くより先にメッセージがくる。先程と同じような内容だ。 「ちょっと見てみな」 天真がメッセージ送信者のプロフィールを開く。『既婚』とあった。 にわかには信じがたいが、ここでは僕の倫理観は通用しないらしい。 「オレ、このアプリ使って人妻とヤりまくってんだわ」 天真がサラッと言った。 「…意外だよ」 僕は天真に、少し乱暴だけどまっすぐなイメージを持っていた。だから、この発言はショックだった。 「どうした?難しい顔して」 「いや、天真の新たな一面を知ったよ」 人を完全に理解することなど不可能なのだ。こうやって新たな一面を知ったところで、完全には理解できない。その人のことは、その人にしかわからない。 やりとりのおかげで歩くペースが遅くなっていたのだろう。教室に入ると、すでに講義が始まっていた。
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