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数日間ナツさんとのやりとりが続き、会う約束をした。
僕はナツさんに会ってどうしたいのだろう。
目的がわからないまま、会うのは明日になっていた。
日付が変わる時間まで考えても答えが出ないので、そろそろ寝ようかと思った時、玄関のドアを乱暴に叩く音が聞こえた。
慌てて玄関へ行き、ドアスコープから外を確認すると、天真が立っていた。
「どうしたの?」
ドアを開けると、いつもと違う様子の天真がいた。ひどく酔っているようだった。僕は天真を中に入れ、とりあえず水を飲ませた。
「大丈夫?」
水を飲み少し落ち着いたようだったが、それでもいつもと様子が違っていた。
「なあ、宗介…」
おもむろに天真が話し始めた。
「オレの母親、男作って出てったんだよ」
天真の両親が離婚しているのは知っていたが、理由は知らなかった。
「オレが中学の時だ。オヤジからいきなり言われたよ。でさ、オヤジが言うんだよ。周りから何を言われても、母さんを責めるなってさ」
「そうだったんだ…」
「散々言われたよ。オレが少しでも悪さするとさ、やっぱり男作って出ていく女の子供だな。みたいにさ」
ナンセンスにも程がある。その主張にどんな根拠があるのだろう。
一般論という虎の威を借り、無責任な主張を振りかざす狐。
そんな輩に天真は辟易したに違いない。
天真がなぜ僕を慕ってくれるのか、少しわかった気がした。
「でもさ、やっぱ憎めねーんだわ。母親だからさ。だから…」
「だから…どうしたの?」
「だからアプリで人妻とヤリまくったんだよ…」
「どういうこと?」
「あいつら、平気でオレの上で乱れるんだよ。でも家に帰ったら、旦那に笑顔で料理作るし、子供にも優しくするんだよ。平気でそんなことがさ…できるんだよ」
天真の目から涙がこぼれた。僕は天真が泣いているのを初めて見た。
「そんな奴らの相手してるとさ…これが普通だって思えてくるんだよ…だから…別にオレの母親が特別悪いわけじゃないって思えるんだよ…そう思うとさ…母親のこと…少し許せる気がするんだよ…」
天真の行動は、天真なりに、なんとかお母さんを許そうとして、考えて考えて、辿り着いた結果だったのだ。
決して褒められる行動じゃない。でも、不器用なりに必死だったんだ。
「今日の相手の子がさ…中学生だったんだ…ヤッた後写真見せてきて…これうちの息子って。それ見てオレ…キレちまって。子供の気持ち考えたことあんのか!って…ビビって帰っちまったよ」
当時の自分と同じ中学生…そのことで天真は反応してしまったのだろう。
「でもそれはダメなんだ…そういうのなしのルールなんだよ。オレ、酷いこと言った…彼女に…酷いことしちまった」
天真はそう言って泣き崩れた。
「大丈夫…天真は優しいよ…大丈夫だ…」
僕は天真の肩に手を置いて言った。心からの言葉だった。
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