1人が本棚に入れています
本棚に追加
ナツさんとの約束は夜だった。約束の場所はナツさんが指定したホテル。調べると僕には似つかわしくない高級なホテルだったので、着慣れないスーツを着て向かった。
時間通りにホテルに到着し、指定された部屋の前に立つ。
このドアの向こうにナツさんがいる。
震える指でインターホンを鳴らした。しばらくしてドアが開く。
「ヤラハタくん?」
初めて聞くナツさんの声はとても99歳のそれではなかった。
「はい」
「どうぞ」
ドアが大きく開いた。僕は中に入った。
「こんばんは」
オシャレなルームウェアを着たナツさんが言った。
少し顔が赤い。テーブルにワインがある。おそらく飲んでいたのだろう。
そんな観察をする前に僕も挨拶をしなければ、ナツさんが挨拶してくれているのだ。
しかし、しばらく声が出なかった。なぜなら、目の前のナツさんが美しすぎたのだ。
年齢は30代だろうか、でも、20代と言われても信じるだろう。
綺麗…いや、妖艶…それも違う。
普段本を読んでいるくせに目の前の人を正しく形容する言葉を見つけられないことが歯痒かった。
「座ったら?少し飲む?」
「は…はい」
そう言うのが精一杯だった。
ワインを注いでもらい、乾杯する。そのまま少しだけワインを喉へ流し込んだ。
ナツさんとワインのダブルパンチで一気に顔が紅潮するのを感じた。
「あらためまして、ナツです」
「ど…どうも…宗介です」
「ヤラハタくんはそうすけっていうんだね」
本名を名乗ってしまった。
「は…はい。す…すみません」
「そんなガチガチにならなくても大丈夫だよ。リラックスして」
できるわけがない。こんな綺麗な人を目の前にして。
「とりあえず、緊張がほぐれるまで飲もうか」
その後、ナツさんはいろいろな話をしてくれた。
メッセージと同じく、他愛もない話。
ナツさんの核心に触れるような内容はなかったが、ナツさんのおかげで僕の緊張はほぐれてきた。
ナツさんは不思議な人だった。大人の魅力というより、特別な何かを持っているように感じた。
僕には女性経験がない。でも、この人が特別な人だということは、不思議と理解できた。
最初のコメントを投稿しよう!