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話はいつしか、僕が登録した理由になっていた。
「で…宗介くんはとりあえずヤりたくて登録したのかな?」
「友達に登録されたんです。その…早く経験しろって…」
「ふふ。お友達はお盛んなんだね」
「はい…でも僕は…そんなに簡単にするものではないと思ってます。好きになって…順序を踏んで…と思ってます。その…会ってすぐとか…そんなの…動物と一緒だ」
「人間だって動物だよ」
ナツさんはイタズラっぽく笑った。
「人間には理性があります。倫理観を持って行動できるのは人間だけです」
「あなたのお友達も動物的に行動してるみたいだけど?」
「違います!」
天真には天真なりの理由がある。それが褒められたことじゃなくても…それだけは譲れない。
「そんな顔もするんだね」
ナツさんは少し大袈裟に驚いて見せた。
「でもさ、宗介くんだって、自分じゃ気づいてないけど、ヤりたいだけかもしれないよ」
「そんなことありません!」
違う。僕は断じて違う。
「じゃあ、なぜアプリを続けたの?きっかけは友達だったかもしれない。でも、続けたのはあなたの意思。やめることもできた」
「やめるつもりでした。でも、ナツさんに出会ったから」
「私じゃなきゃダメだった?99歳のわけのわからない女じゃなきゃダメだった?」
わからない…そう言われると自信がなくなる。
「私はあなたじゃなきゃダメだった」
「どういうことですか?」
「99年も生きてるとね、周りは知り合いだらけになるの。だから、私のこと知らない人と、何も気にせず会ってみたかった」
「なぜ僕…?」
「こっちの質問に答えてないよ」
「僕は、ナツさんが好きです」
考える前に口から出た。
「君の理屈だと、そういうことは好きにならないとしちゃいけない。今の『好き』はそういうことをしたいがための告白なのかな?それとも、私に本気になった?」
どちらも正解のような気がしてきた。
「好きです」
もう一度言った。先ほど言った好きを前者に対する告白。今言った好きを後者に対する告白ということにしよう。
「宗介くんは何しにここへ来たの?」
ナツさんは少し笑って立ち上がると、僕の手を引いてベッドへ歩き出した。僕はその弱々しい力に抗うことができなかった。
ナツさんは僕をベッドに座らせ優しく抱きしめてくれた。そして、二人でベッドに倒れ込んだ。初めて感じる女性の体はとても柔らかかった。
「最初から、あなたはそういうつもりだった」
僕は自分の倫理観を守るため何かを言いたかったが、僕の唇はナツさんの唇にフタをされた。
その後はよく覚えていない。ただ、行為が始まってすぐ、20年間で積み上げた僕の倫理観など、どこかへ吹き飛んでいた。
つまりその行為は、僕が考えていたよりも、はるかに動物的なものだった。
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