妻の決意

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妻の決意

 穏やかな光の差し込むダイニングで、一組の夫婦が朝食を摂っていた。  不意に妻が口を開く。 「ねぇあなた。私、そろそろ天国の門をくぐろうと思うの」  夫は怪訝そうな顔をする。 「せっかく永遠の寿命があるんだから、そんなに生き急がなくたっていいだろう?」  妻は答える。 「やりたいことは全てやったわ。もうこの世に未練はないの」 「僕はまだ君とこうして話をしていたいと思っているけれど、君は違うのかい?」 「結婚して100年も経てば、同じ話の繰り返しだわ。若い世代のためにも古参はさっさと門をくぐるべきよ」 「体をなくして、一滴の雫になってしまうんだよ?」 「体があったって、やることがなくては生きている意味がないと思わない?」 「やりがいなら見つければいいじゃないか」 「やりがいを感じるようなことは、この100年でやり尽くしたわ。私はもう満足したのよ。逆にあなたはこれ以上生きて何がしたいの?」
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