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夕食を食べ終えてすぐだった。
「どうでした、ロールキャベツ。初めて作ったけど」
と言われ、オレは平生を装いながら、
「うん美味しかった」
と答えた。別に嘘じゃない。不満があるのは味に対してじゃなくてメニューに対してだから。
するとホッとした顔で冬木が、
「明日は何を作ろうかな」
と言うから思わずコイツの顔をじっと見てしまった。
見返してくる冬木はこっちの不満に気がついているだろうに……気づいてないのか? いや、分かってんだろ、とっくに……ちょっと迷ったけれど結局言ってしまった。
「明日は、というかもうこれから全部カレーでいい」
比較的冷静に言えたんじゃないか、
だって、本心では怒鳴ってしまいたかった。
そのくらい……日々の小さな積み重ねがオレを追い詰めていた……。
なのに冬木は、
「カレーかぁ……でも俺明日は前回失敗したイカのフライをリベンジしたいんですよね」
などと呑気に言ってくる。
……いや……いい。気にしなければいいんだ、気にしなければ。
食後のお茶を淹れてくれる骨ばった大きな背中手が好きだ。
昔はもっと小さかった。
あの頃から可愛げはなかったけど。
普段は目つきが悪いのに食事中は優しくなるところとか、食事が終わったらすぐ片付けを始めずに余韻を楽しみながら会話をしてくれるところとか……好きだ。
だけど。だけど、だけど。(またか……)と、思わず寄りそうになる眉根をもみほぐしながらオレは答えた。
「揚げ物はダメ。台所が汚れる」
「……掃除も俺がします」
食い下がる冬木にイラッとせずにはいられない。
「……あのな、カレー食べたのはもう一週間前だぞ。オレはカレーがいい。毎日、カレーでいい」
ドンと拳でテーブルを叩きながら言った一言は、は自分でもビクッとするくらい低い声だった。
切長の重の目を見開いた冬木がオレを見る。
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