閉幕 なくしたもの 残ったもの

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春。 「龍ちゃん、恭ちゃん!急いで!入学式に遅刻しちゃうよ!」  お隣の家の奏音ちゃんが元気に飛び出してきた。相変わらずかわいいヘアアレンジをしている。けど制服にはちょっと派手すぎるリボンかな?と思うけど。  奏音ちゃんの後ろから三村兄弟が出て来て、三人と目が合う。 「おはよう。奏音ちゃん、龍平君、恭平君。今日、入学式なんだね、お互い。」  そう言って声をかけると奏音ちゃんは不機嫌そうに顔を背け、龍平君と恭平君は気まずそうに目をそらす。  それでも龍平君が 「おはよう。莉乃……。あ、遅ればせながらだけど、合格おめでとう。」  と俯きながら言う。恭平君も「お……はよ」とかモゴモゴ言っている。 「ありがとう。お互い頑張ろうね。」  そう。私も凛ちゃんも蓮君も揃って希望していた同じ私立中学に合格した。本当は一緒に入学式に行く予定だったけど、中学入試の試験でトップ合格をした蓮君が中等部の新入生代表で挨拶することになり、蓮君一家は早目に学校に行くことになったのだ。  そして私とママは 「莉乃!パパそこまでもう来てるって!」  ママがスーツを着て家を出てきた。  パパがどうしても私の入学式に出たいと言って、ママが「しょうがないわねー、じゃあ車出してよね」と承諾した。  パパはわざわざ新車を購入し颯爽と迎えに来る。 「莉乃!おはよう!制服可愛いな!」  パパが車から出て来てもう既に涙ぐんでいた。 「ちょっと!涙で運転したら危ないでしょ!それにしても何よ、この車!これ見よがしねぇ、相変わらず。」  パパの新車はどうやら高級車らしく、機能性重視のママは嫌な顔をした。 「…、莉穂、君、そんなキツイ性格だった?」  パパがママの言い方に驚く。 「いやー、誰かさんのお陰で強くなりましたよ。シングルマザー7年目ですからねー。あ、ちょっと、名前気安く呼ばないで。二階堂さんかせめて莉穂さん、ね。」  嫌味っぽくパパを睨むママ。パパはますます泣きそう。 「パパ!ママ!もう、やめなよ!行こう!」  ママは後部座席に乗り込む。私もママの隣に。  「え?二人共後ろ?助手席空いてるけど……」 「は?」 「…すみません、調子にのりません。」  ママの一文字の返答にパパはションボリと頭を下げる。  私は車の窓を開けて、3人に手を振る。 「じゃあ!元気でね!恭平君も龍平君も野球頑張ってね!」 「……莉乃!……いろいろ…ごめん!」 「ごめん、莉乃!」  龍平君と恭平君は頭を下げた。奏音ちゃんは無言で下を向いている。  あの日、保健室での出来事以来、ほぼ話すこともなかった私達。  学校に提出したボイスレコーダーは三村のおばさんにも絵里奈ちゃんの親御さんにも公開され、謝罪をしたいと申し出があったが、ママはそれを断わった。ただ、これ以上娘に関わらないでほしいと要求した。 「……バイバイ!龍平君、恭平君!」  許すとか赦さないとか言いたくなくて私は窓を閉めた。  パパの車は静かに走り出した。
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