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振られた役割
「あ、ごめん、莉乃さんにはわからない話だよね。怒らないで。」
「莉乃さん、気を悪くさせてごめんなさい。私が悪いのよね。」
この台詞、いつからしょっちゅう言われるようになったんだろう。
奏音ちゃんがお隣で暮らすようになってから数週間。
転校二日目以降は前みたいに龍平君、恭平君と登校するようになった。奏音ちゃんは毎日三村のおばさんに髪をアレンジしてもらうから、前よりちょっと待たされることが多かったけど、気にするほどではなかった。
奏音ちゃんはそれなのに大げさなくらい申し訳なさそうに謝ってくる。
「ごめんね!叔母さん、女の子の髪の毛結うの大好きだからいつもすごい頑張ってくれて……。莉乃ちゃんみたいに手がかからないように切っちゃえばいいんだけど、おばさんも龍ちゃん、恭ちゃんも女の子らしい方がいい、って聞いてくれなくて。いつも遅くなって待たせてゴメンね。怒ってるよね?」
いろいろ違和感はあったけどなんて言ったらいいかわからなくて
「ううん、怒ってないよ。今日も可愛い髪型だね。」と返した。
それなのに奏音ちゃんは
「ありがとう!なんか叔母さん、前は莉乃さんのためにリボンとか集めてたみたいで……。莉乃さんがショートにしちゃって使わなくなったから私が来て喜んじゃってるみたいなの。あ、ゴメンね、余計なこと言って。睨まないで」
「え?に、睨んでないよ?」
「でも、親戚でもなんでもないおばさんに構われるのなんて嫌だったからショートにしたんでしょ?叔母さんのこと悪く思わないで。女の子が欲しかったけど産まれなかったから赤の他人でも世話を焼きたくなっちゃうみたいなんだよね」
「悪くなんて思ったことないよ!」
つい、ちょっとだけ大きな声が出た。
数歩前を歩いていた龍平君と恭平君が振り向く。
「どうした?なんかあった?」
すると、奏音ちゃんはビクっとしたように涙目になり
「ご、ごめんなさい!わ、私が莉乃さんの気に障ること言っちゃって。謝るわ。機嫌直して?」と縋ってくる。
「まったく……。奏音は考えなしなんだからなぁ。ごめん、莉乃、こいつ悪気はないんだけど島であんまり女友だち多くなかったみたいで付き合い方わかんないところがあるんだ。多目に見てやって。」
なんだか私が奏音ちゃんに怒ってるみたいな風になってしまって、気まずかった。だから、つい無言になると。
「ごめん!私が悪いんだよね?気を悪くさせてごめん!私、先に行くね!」
泣きながら走っていく奏音ちゃんに動けなくなる私。
「奏音!」
慌てて龍平君が追いかける。
残された恭平君は困ったように顔を歪めた。
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