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その日の午後の授業は、来年の修学旅行の班ごとの話し合いだった。
奏音ちゃんが転校してくる前に班分けは決まっていて。
6〜7人くらいのグループに分けるように言われ、特に考えもせず、いつものメンバーで班を作った。
奏音ちゃんがここに入るんだろうとなんの疑いもなく思っていたから、グループで集まろうとした。そこに、気まずそうな顔の龍平君たちがこちらにやってきた。
「あの……さ、ちょっと相談なんだけど。」
「なに?」
蓮君が冷ややかな目で龍平君たちを見る。
龍平君の後ろには恭平君と奏音ちゃん、そして、体育の着替えのときに奏音ちゃんのそばで見かけた龍平君と恭平君のファンだという三人組の女の子たちがいた。
言いづらそうな龍平君と恭平君に代わって奏音ちゃんが話す。
「あのね、私、この絵里奈ちゃんたちと友達になったの。で、一緒に龍平君と恭平君の班に入れてもらおうと思ったんだけど、先生に聞いたら、ちょっと人数が多すぎるからだめだって。だから、莉乃さんと凛さんには別のグループに行ってもらえないかな?って思って。」
「え?」
「は?」
凛ちゃんと蓮君がおんなじタイミングで疑問符を投げかける。
「だったら奏音ちゃんが絵里奈ちゃんのグループに入れてもらうのが早いんじゃない?絵里奈ちゃんたち、6人グループだったよね?」
凛ちゃんが硬い口調で言う。
「いや、奏音は俺たちが面倒見てくれって叔母さんに頼まれてるし……。」
恭平君がそう言うと、凛ちゃんが睨んだ。
「ほら、宿の部屋割りも班ごとにツインルームかトリプルだから、凛さんと莉乃さんは離れない方がいいでしょ?蓮君は龍ちゃんや恭ちゃんとトリプルにすればいいし。」
「へえ、ご親切にどうも。優しいのねー。」
凛ちゃんは嫌味っぽく言う。
「いいよ。じゃあ、俺と莉乃と凛は、佐々木のいた班に行くよ。お前らで新しく班、作れよ。」
佐々木っていうのは絵里奈ちゃんの名字。蓮君は妹の凛ちゃんの他には私のことしか下の名前で呼ばない。
凛ちゃんと蓮君の言葉にそれぞれが焦る。
「え?でも先生は7人くらいまでならいいけど、って言ってたから蓮君はこっちに残っても大丈夫だよ。」
奏音ちゃんが蓮君に手を伸ばす。蓮くんはあからさまにその手を避けた。
「そういうの、いらない。凛、莉乃、行こう。」
「OK。じゃあね、恭平、龍平。お互い新しい班で頑張ろーねー。」
凛ちゃんもさっさと筆記用具を持って様子を伺っていた元絵里奈ちゃんのグループに近づいていった。慌てて追いかける私。
ちらっと奏音ちゃんの様子を見たら固まっているみたいに見えた。
「よろしくね。」
凛ちゃんは新しい班のメンバーに何もなかったように話しかけた。
そのメンバーは男子2名、女子1名の3人だった。女子は絵里奈ちゃんたちグループとは違って目立たないおとなしいし女の子。
「……うん。」
恥ずかしそうに俯くその子は七尾雪子さん。私も凛ちゃんもほとんど話したことはない。でも。
「七尾さんってさ、絵、うまいんだよね。班のレポートや新聞の挿絵とか頼んでいい? 」
凛ちゃんが気さくに声をかけた。そう、七尾雪子さんは毎年市や県の絵画コンクールに作品を出品して金賞や特選を貰っている。
無口な彼女なのに、その作品は芸術に疎い私が見ても情熱的で、圧倒される。
「え?う、うん。がんばる。」
「やった!莉乃も蓮も勉強はできるけどめちゃめちゃ絵が下手なのよ。」
「おい!お前だって似たようなもんだろう!」
蓮君が言い返す。
「いや、二人に比べたらマシだから。蓮の描いたドラ◯もんや莉乃の描いた◯ンパンマン、呪われてるから」
「お前のピカ◯ュウだってゾンビだからな!」
恥を晒されて真っ赤になった私だったが、七尾さんや男子の八鍬君、九重君は吹き出した。
「の、呪われた◯ンパンマン、ってどんなだよ。あれ、丸描いときゃ形になるだろう。」
ツボに入ったらしいのか、八鍬君は笑いが止まらない。
「ゾンビのピカチュウ……。見たい」
九重君も肩を震わせてる。
「二階堂さんも、五十嵐兄妹も完璧人間だと思ってたから意外すぎる…。」
「なんだそれ?凛は性格キツイし、莉乃は鈍感だし、全然完璧じゃねーよ。」
「なによ!蓮だって黙ってればな~んにも動かないズボラ帝王じゃん!」
「ど……鈍感?私?え?そうなの?」
「無自覚かー!!!」
どっと笑って、ついには
「そこのグループ!静かに話し合いしなさい!」と先生に注意された。
結果的にこの班で頑張ろうと思えた。幼馴染の男の子以外と喋るのが苦手な私だけど、この班の経験でそういう苦手を克服できたらいいな、ううん、克服しよう!って思うくらい前向きになれた私だった。
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