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開幕
パパとママが「リコン」して、私がママと一緒にこの中古の一軒家に越してきたのは、小学生になる直前だった。
今まで住んでいたタワーマンションとよばれる背の高いマンションにはパパは新しい奥さんと住むらしい。
ママはパパから沢山のお金をもらったからしょうらいのことは心配ないよ、と言っていた。これからは外でお仕事もするしね!と笑う。
ずーっと泣いてばかりだったママだったから笑ってくれて嬉しいと思った。もともと綺麗だけど悲しい顔ばかりだったママだから私は今のママのほうが好きだ。
「困ったことがあったらいつでも連絡してね」とパパは別れるとき言ったけど、今まであまりお家に帰ってこなかったし、他の家のパパみたいにキャンプや遊園地やお買い物に連れて行ってもらったこともなかったから、とくに何も思わなかった。
むしろ私の困りごとはパパがママを泣かせるってことだけだったからね。
へー、パパって私のことが覚えていたんだね、名前とか覚えているのかな?ってぼんやり思った。
悲しいとか怒るとかじゃなく、何にも感じず「バイバイ!」ってした。
新しいお家はそんなに大きなお家じゃなかったけどママと二人で住むには広くて、私の部屋には可愛いカーテンやベッドや買ったばかりの机とランドセルが入っていた。
お受験をして合格をした小学校。ママは通ってもいい、って言ったけど新しいお家からはちょっと遠すぎる。
だから新しいお家の近くの公立小学校に入ることにした。
「学校に行く通学路、見に行こうか?」
引っ越しを終えて、お昼ごはんを食べたら、ママがそう言った。
玄関を出て、鍵を締めて。ママから紐の付いた鍵を貰った。
前のマンションはオートロックだったし、第一ママがお家にいないことなんてなかったから鍵なんて持ったこともなかった。
ピョン、と跳ねるように門を出ると、お隣の家から丁度よく人が出てきた。
「あ、こんにちは!今日越してきた、イチ……、いえ、二階堂です。夕方にご挨拶に伺おうと思ってました。」
ママは一瞬、この間までのお名前を言おうとして新しいお名前に言い換えた。
ニカイドウ、ニカイドウ、新しいお名前。
私も小学校からは二階堂莉乃 だ。
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