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エピローグ
「ねえ、莉乃!初等部から上がってきた王子様、知ってる?」
入学して数日たったころ凛ちゃんが興奮気味に話しかけてきた。
クラスは凛ちゃんと一緒だった。蓮君は隣のクラス。その蓮君のクラスに初等部からの天才と名高い生徒がいる。デュボア・一冴君。
なんでもお父さんはM国の初代大統領で現在は奥さんの祖国である日本に住んでテレビなんかにも出ている国際政治学者だとか。
その上一冴君はお姉さんがムーンリットグループと言う有名な財閥の御曹司に嫁いでいるらしい。
更に、その容姿は西洋と東洋が絶妙に混じり合った完璧な美しさ。
お母さんが元モデルというのも納得だ。
「知ってる。蓮君のクラスだよね。」
「そうそう!なんかさ、蓮と友達になったみたいで!」
「そうなんだ。友達できてよかったね、蓮君。」
ある意味私のせいで仲の良かった龍平君や恭平君と訣別した蓮君。修学旅行で同じグループだった八鍬君や九重くんとはよく話をしていたけど、二人は中学で別れてしまった。
そういえば、その時のグループで仲良くなった七尾雪子ちゃんは実はクラスは別だけどこの中学にいて。ここの高等部には芸術コースがあり、ここから美大を目指したいと言っていた。
「今度家に遊びに来るとか言ってるらしいのよ!王子様!」
「そうなんだ~。ん?じゃあ凛ちゃんとも親しくなるのかな?」
「きゃー!どうしよう!蓮みたいに上手く王子と話せないよ!」
「えー?だってデュボア君?日本語話せるんでしょ?」
「いや言葉の問題じゃなく!え?莉乃、なんとも思わないの?王子見て。」
「なんともって?ああ、蓮君のクラスの人だなーとか蓮君は入試で一番だったけど、デュボア君って人も初等部じゃ一番だったから蓮君がんばらないとだなー、とか思うけど。」
「……いや、そうじゃなくて。あのスタイルとか顔面偏差値の高さとか。」
「うーん、だって凛ちゃんも私にとってはとんでもなく美少女だし、蓮君もすっごくカッコいいし。蓮君は背も高いし足も長いし頭もいいし……優しいし。」
「は?優しいのは莉乃にだけでしょ?あいつ、莉乃以外の人間、虫ぐらいにしか思ってないよ?冷血人間だよ」
「そんなことないよ!周りのことにも気を遣ってくれるし。ちょっと過保護だけど、私のこといつも守ってくれるし。凛ちゃんが羨ましいよ!あんなお兄ちゃんがいて。私も妹に産まれたかったな。世界で一番素敵なお兄ちゃんだよ。」
「……へー、お前、囲い込むタイプ?」
「……ウルサイ」
後ろから聞こえてきた声に驚いて凛ちゃんと振り返ったら蓮君と噂のデュボア君がいた。
「あ…蓮君。」
「うぁぁぁ。蓮、デュボア君。」
「今日、一冴が家に遊びに来るから一緒に帰るから。それを言いに来た。」
「蓮君、顔が赤いよ?大丈夫?熱、ある?」
心配して聞くと蓮君は首を横にふる。
「……蓮、この子、天然?俺のねーちゃんと同じ匂いがする。あ、『色』も似てるかも」
デュボア君が私を見て言う。ん?匂い?なんだろ?臭いかな?色って?
「一冴、あんまり見るな。匂いを嗅ぐな。」
蓮君が私のことを隠す。
「こわっ!あ、君は蓮の妹?」
「は、はい!五十嵐凛です!蓮がお世話になってます。よろしくお願いします!」
「こちらこそ。ね、蓮ってあの子の前ではあんな感じ?」
「あー…。はい。もう極甘キャンディの砂糖がけです。」
二人はコソコソと話していた。
数カ月後、中等部に王子様のデュボア君と奇跡の美少女、五十嵐凛ちゃんのビッグカップルが誕生した。「あー、あの二人なら納得だよね~」と文句も出なかった。
「寂しい?蓮君?」
二人が初めてのデートに行った日、私は蓮君と映画を見に行った。
「ん?何が?」
「妹が取られちゃって」
「……いや、全然。」
「大丈夫だよ!私がいるから!いっつも一緒にお出かけするし、なんなら私のこと凛ちゃんのかわりに妹と思ってもいいよ!」
蓮君はなぜかため息をついた。
「あのね、妹じゃ困るの。」
「え?」
映画館の予告が始まるので館内が暗くなる。蓮君は私の耳に近づいて言った。
「僕の舞台では莉乃の役は………」
この舞台は絶対に降板しない。
[完]
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