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第二幕 ヒロイン登場
「四条奏音です。」
教壇の前で消え入りそうな声でその子は言った。 ふわふわの髪は双子のお母さんが張り切ったのかかわいくアレンジしてあり、垂れ目で目の下の泣きぼくろが可愛かった。
奏音ちゃんはウチのクラスに転入してきた。
前日に我が家にも挨拶に来たけど、その時も人見知りをして、龍平君や恭平君の後ろに隠れるようにしていた奏音ちゃん。
代わりに龍平君たちが紹介してくれたけど声を聞いたのは今が初めてだ。
龍平君と恭平君とはいつも一緒に登校していたから、今朝も隣の家に誘いに行くと、出てきた恭平君に、
「ごめん、奏音がちょっと具合悪くして今薬飲んで落ち着くの待ってるから、先に行ってくれる?俺ら後からお母さんの車で行くから。」と言われた。
「大丈夫?」と聞くと
「うん、多分緊張しちゃったんだと思う。すぐ落ち着くよ。」
「そう。じゃあ、お大事にね。後で学校で」
と言って一人で登校したのだった。
一人で学校に着くと、先に着いていた凛ちゃんと蓮君がすぐに来てくれた。
2年生からはバラバラのクラスだったけど、5年生になったとき、久しぶりにみんな一緒のクラスになった。来年はこのまま持ち上がりでクラス替えもない、とのこと。修学旅行や小学校の最後の行事を一緒にできるとみんなで大いに喜んだ。
「一人?莉乃。」凛ちゃんが不思議そうに聞いてきた。
「うん。なんか奏音さんが具合が悪かったみたいで落ち着いたら後で来るって」
「そうなんだ。」
そんな私と凛ちゃんの会話を黙って蓮君は聞いていた。
考えてみれば、誰かが風邪を引いたとしても残りの二人で登下校をしていたから私は一人になることはなかった。
小2のときに、変質者が現れて、買い物に出た私が手を引っ張られたことがあった。幸い防犯ベルを持っていたから鳴らしたら逃げていったので大事にはならなかったけど。それ以来一人で登下校や遊びに行くことはしたくなかったし、二人もさせなかった。
二人がリトルリーグの練習のある土日に凛ちゃんの家に遊びに行くときは、必ず蓮君が迎えに来てくれた。
(もう、5年生だもんね、私も。一人で登下校くらいできないなんてだめだよね。中学になったら二人は部活の朝練とかあるかもしれないし。今から慣れておかなきゃ)
私はなんてことないよ、という顔をして凛ちゃんと蓮君に微笑んだ。
始業ギリギリに龍平君と恭平君は教室に入って来た。奏音ちゃんは職員室だろう。
教室の後ろの自分の席に行く前に、窓際の一番前の席の私と蓮君のところに、龍平君と恭平君は来て謝った。
「莉乃、今朝はゴメンな。せっかく迎えに来てくれたのに。」
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