第二幕 ヒロイン登場

2/4
前へ
/26ページ
次へ
「て、いうかさ、二人のうち、どっちかが残ってればよかったんじゃない?」  珍しく蓮君がキツめの口調で龍平君たちに言った。 「え?あ、うん、そうか、そうだよな。奏音が心細いから二人にいてほしい、って言ったから。ほら、初登校じゃん?」 「あいつ、弱っちいから……」    いつも穏やかな蓮君が責めるような口調で言ったのにおどろいたのか、二人は戸惑ったように言い訳をする。 「奏音はお母さんが、俺らの叔母さんが入院してて、ただでさえ心細いんだよ。知らない土地で新しい生活だし……。莉乃は学校に行けばお前らもいるだろ?」  恭平君はムッとしたように蓮君を睨んだ。  蓮君はそんな睨みを気にするふうもなく、 「明日から莉乃と登校できないときは、俺に先に連絡して。俺と凛が迎えに行くから。それともはじめからそうしようか?大した回り道でもないし。」 「………いや、明日からは俺らが奏音と莉乃と一緒に来るよ」 「……だったらいいけど。」  蓮君は私の方を向くと、柔らかい表情を見せた。心配するなよ、って言ってくれてるみたいだった。  蓮君がこんなに私に過保護になるのは、あのときの変質者が突発的に私を狙ったのではないことが後々犯人が逮捕されてわかったからだ。  犯人の部屋には登校中や外で遊んでいる私の写真が何枚も見つかった。  何かのキャラクターに私が似ていると思い込み付け回していたらしい。普段は双子の兄弟が一緒だったけど、あの夏に奏音ちゃんのいる離島に遊びに行っていて、一人でお買い物に行くところを狙われたらしい。  あのときの犯人だって私の連れ去りは未遂に終わったわけだから、とっくに野に放たれているだろうし、接近禁止命令がでていても守るかどうかなんて分からない。  自衛くらいしかできることはないのだ。  蓮君はあれ以来、凛ちゃんや私のことをずっと見守ってくれている。  あまりに過保護だ!と凛ちゃんは不平を言うけど、あんな怖い思いをした私はありがたいと思うだけだった。  先生が奏音ちゃんを連れて教室に入ってきて、私と蓮君の席から兄弟や凛ちゃんたちは自分の席に帰っていった。  先生に紹介されてオドオドとうつむきながら奏音ちゃんは頭を下げた。クラスのお調子者の男子が 「うわ!超可愛い!うちのクラスのメスゴリラと全然違う!」とおちゃらけた。 「誰がメスゴリラだよ!イボイノシシが!」  すかさず凛ちゃんが言い返す。  凛ちゃんは物凄い美人だけど、物凄い気が強い。長い真っ黒のストレートヘアに強い目ヂカラ。整った顔つきは威圧感があり、同い年の普通の男子にはとても太刀打ちできるものじゃない。しかも口が達者。    私も前までは凛ちゃんと同じく、ロングヘアで、それこそ、ママや龍平君、恭平君のお母さんに、髪を結ってもらったりしていた。ただ、変質者の好きなキャラクターが髪の毛長い女の子だと知って、突発的に自分で髪を切った。  工作ばさみでザクザクに髪を切った娘の姿にショックを受けたお母さんに代わって、様子を見にたまたま家に来た凛ちゃんと蓮君に付き添われて、美容院に連れて行かれた。    凛ちゃんのママの行きつけという個室のあるサロンで髪を整えてもらった。  それ以来、髪は伸ばしていない。  奏音ちゃんの長いフワフワした髪の毛に結ばれたリボンを目にして、なんだかチリチリした胸の疼きを覚えた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加