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「四条さん、あなたはあそこに座ってくださいね。」
担任の先生は凛ちゃんと言い争いをしたお調子者の男子、青山君の隣の席を示した。青山君は大げさに「ヨッシャー!」とおどけて見せる。
「あ、あの!私、目が悪いのでそこの席がいいんですけど!」
奏音ちゃんはそう言って私の席を指さした。
「え?」
前の方の席じゃなく私の席と代わりたいってこと?
「……いいよ、じゃあ、僕が後ろに行くよ」と、隣の席の蓮君が言う。すると、奏音ちゃんは慌てたように蓮君を止める。
「え?で、でも、貴方も眼鏡掛けてるから見えづらいんじゃないですか?」
蓮君は眼鏡を掛けている。でも、実は私たちの間では知ってるけど、これは伊達眼鏡だ。
低学年の頃、中性的な美人顔だった蓮君は同級生の男の子にからかわれて顔を隠すように眼鏡をかけ始めた。高学年になってからはどんどん男っぽい顔になって隠す必要はないんだけど、逆にそのイケメンぶりで、色んな場所でスカウトされたり、写真を撮られたりするようになった。なので、伊達眼鏡は高学年になっても継続中。
もっとも最近では妙に色気がダダ漏れで、伊達眼鏡すらそのかっこよさを隠せてないんだけどね。
「……大丈夫、あそこの席でも見えるから。」
と、蓮君が机ごと移動しようとした。
「……でも!……あの、莉乃さん、どうしても莉乃さんは代わってくれないんですか?目の悪い人に譲ってもらえないですか?」
涙目で言う奏音ちゃんに戸惑ってしまう。
どういうこと?
「あ、いいよ。えっと……、私が後ろに行けばいいのか、な?」
「ありがとう、莉乃さん!」
ホッとしたように奏音ちゃんは言う。すかさず、蓮君の机を抑えて、元の位置にもどそうとする。
「莉乃さんもそう言ってくれてますから……好意には甘えましょう!えっと、五十嵐蓮君ですよね?龍ちゃんと恭ちゃんから聞いてます!」
とびきりのいい笑顔で奏音ちゃんは、微笑んだ。アイドルみたいに可愛いなー、と思った。凛ちゃんとは違った魅力のある人だな、と思った。
蓮君はそんな奏音ちゃんを無視した。
「先生!だったら、僕と二階堂さんが後ろの席に行きます。青山君に前の席に来てもらえばいいんじゃないですか?」
先生もちょっと考えて、
「そうだね。そうしよう。青山君、前に!」
「げっ!!!」
居眠りができない一番前の席に座るアンラッキーと美少女の転校生の隣に座るラッキー。青山君は微妙な表情で前の席に移動した。
私は先生や青山君にも面倒をかけて申し訳ないな、とは思ったけど、蓮くんの隣が変更ないのはホッとした。
実はあの連れ去り未遂のあとから龍平君、恭平君、蓮君以外の男の子がちょっと怖かった。
スクールカウンセラーの方や先生方の配慮で、学年が上がってもクラスは3人の誰かと一緒だったし、席もなるべく女の子か3人の誰かの隣にしてもらっている。
「ありがとう、蓮君。ゴメンね」
「ありがとうは受け取るけど、ゴメンね、はいらない。窓の近くの席、暑いしね。ここ、エアコンもよく効くからいいよね。」
蓮君が柔らかい顔で笑う。
「莉乃のほうが、気心がしれてるから気が楽だしねー。側にいると安心。」
他の人には見せないような優しい顔で微笑むからいくら幼馴染とはいえ、ドキリとする。無自覚のイケメン、心臓に悪い。
「ん?どうした?莉乃、顔赤いよ。暑い?」
「う、うん!まだまだ残暑厳しいよね!」
パタパタと誤魔化すように手で顔を仰いでいた私は奏音ちゃんがこっちを見ていることに気づかなかった。
「……ちょっと、厄介だねー。」
近くの席になった凛ちゃんの呟きに、蓮君は
「だな。」と答えていたが、なんのことだかはわからなかった。
双子の凛ちゃんと蓮君はたまにこうやってお互いの言いたいことを言葉がなくても通じあわせている。
呑気に「兄弟っていいなー」と私は思っていた。
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