その恋は突然に

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「えっと、ありがとう?」  あー、困っているような笑顔も可愛い――って、悶えてる場合じゃない!  推しの貴重な時間をわたしごときが奪う訳にはいかない!  大して良くない頭をフル稼働させる。 「あの、やっぱり、送ってもらわなくて大丈夫です! タクシー呼んで帰るので!」  タクシーを呼べば駅まで送ってもらう必要がなくなる。  つまり、ミコの時間を奪わなくて済む。  我ながら名案じゃ!? と思ったのに、ミコは渋い顔をしている。 「ごめんなさい、やっぱり駅まで一緒に帰ってください!」  ミコの機嫌が悪くなりそうだったので、速攻撤回した。  すると、すぐに笑顔を向けてくれる。 「じゃあ、行こう? 帰りを遅くしちゃ悪いし」  キラキラ笑顔を向けられたら悶えるしかないんだが?! と、心のなかで叫びながら頷く。  今日一日で寿命が縮んだり伸びたりしたと思う。  ミコと並んで歩く事に違和感しかない。  歩くペースをわたしに合わせてくれているのも尊い。  顔が良いだけじゃなくて、気遣いも出来る――この子、絶対モテる! (わたしなんかがミコの隣りにいてごめんなさい!)  心のなかで神様と全人類に謝りながら、わたしはミコと駅に向かって歩く。 「ねえ、おねーさん家って最寄り駅から近いの?」 「えっと……ちょっと、歩く?」 「何で疑問形?」  突然の質問に困惑しながら答えると、つっこまれた。
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