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2月13日の15時まで、私はあるクリニックの看護師として働いていた。
ただ患者さんを呼び入れそばに立ち、そして診察終了を見計らってドアをスライドさせ、診察室から出て行く患者さんに「お大事になさってください」と丁重に頭を下げる。
医師が血圧を測るということもないので、無駄に立派な血圧計はただ放置されているだけだった。電子カルテ、さらに医療事務さんが医師と患者さんとのやりとりなどを記録するわけで、医師はただ話を聞いて処方と次回受診日を決めるだけ。ソトヅラだけ良くするこの52歳の男は、愛想をふりまくのがなんだかオネエみたいで、気持ち悪かった。それなのに目だけは血走っているような荒さがある。
「この人は心を診ていない人だ」とわかっていた。患者さんの中でもそう感じている人はいただろう。先生にわかって欲しい、診察の度に何度も同じ事のやり取りをして、いっこうに解決していない患者さん、「専門外だから」と適当な処置しかせず、連休前だというのに他病院に紹介する話も中途半端な医師。脱水かもしれないと慌てて連れてきた年老いた母親に対しての、この冷淡な対応の先生を訝しげに見つめる息子さん。かつては誤診もあったらしく、確かにこの先生は、想像以上に何もできない医者だなぁと痛感していた矢先であった。
頭痛外来の再診の女性を見送った後だった。
ファイルに患者名を書いて、診察券など入れて、それを会計に回すのだが
「今の方、再診だけど初診がどうこう・・・」
「・・・?」
「私の言っていることわかりますか?」
「前回から半年以上経過しているから初診料かかることですか?」
「違います!再診が云々・・」
この人は会話もろくにできないのだろうか?
一体、何を言いたいのか何を指示したいのか、今までも理解不能な言い方ばかりして、振り回されていた。ネチネチ言ったり、突然怒鳴ったりするのだ。
私は何かが切れた。キレるって本当に色々なモノが切れるものだ。
「外回りの人はいないし、私が動き回って忙しい上、こんなことまで
中付き(患者さんのそばにいる)の仕事なんですか!!」
「中付きの仕事です!!!」
他の看護師も来たけれど、アホみたいな顔してるだけだし、先生はただ座ってるだけだし、一気にどうでもよい感情が爆発した。
「訳分かりません、辞めます」
そう言い捨て、私はその場を去った。まだ予約の患者さんはいたし、あと2時間半で今日の仕事は終わるはずだった。
患者さんの誘導ばかりで事務的なこと、状況などわかるわけないだろうが。外回りはただ順番にファイルを置いていくだけ。何か先生に伝えることがあっても、おかまいなしにいなくなるから、医師に「これはどういうこと?」と急に尋ねられても外の様子を知らない私が知るよしもない。
医師からすれば、すべて把握して自分にわかりやすいように、仕事がしやすいようにはからえ、ということらしい。
外回りの看護師は二人もいたのに、二人とも何をしていたのか、肝心な時にいない。なぜか掃除の準備を始めようとしていたとか、ただ受付で突っ立てるだけ。そうなるとイライラする医師を待たせ、私が外回りの仕事もする。一人で走り回ったあげく、患者さんの診察後の云々までネチネチ言われた私は、よくそれ以上の暴言を吐かずに去ったことだけは、自分は偉いと思った。
「どいつもこいつも、役立たず!」
もちろん言わない。ここに馴染めない私が悪いんでしょ。誰も助けてくれなかったもんね。
最近、医師からのパワハラがずっと続いていた。あと5回、いや3月いっぱい、など辞めることも考えていたのだが、その日は突然訪れたのだった。
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